71) 仲間の訓練も大事なのね。
無言のまま宿屋に到着し、アールス達と食堂で合流する。
夕食を皆で摂り、その日の報告をお互いにしていた。
少々イッチーとの別れで落ち込んでいたオイラを気遣う様に、ミューが彼是と説明をしてくれていた。
「そうですか、部屋の片隅で“刎兎”がミイラ化していたのですか……ツイていましたね!」
アールスは羨ましいですねと嬉しそうにミューの話を聞いている。
今回の白角ウサギ、“刎兎”と呼ばれているらしく、触れたモノを破壊する特性が厄介な魔物だという。
ただ、オイラ達で魔物を倒したことは内諸にする事にした。
ミューが言うには、あのクラスの魔物をFランク2人で倒すとは考えられず、逆に盗んだ等の疑いが掛けられそうだと……
と、いうわけで“何故か落ちていた”という事にした。勿論、冒険者ギルドで確認すると、魔物に所有権は無いので大丈夫なのだそうだ。
一応、“強奪してきた”の疑いを解消するために、ステータスプレートによる“冒険者の魂の吸収”の有無の検査も受けた。
初心者講習で受けた“経験値”の説明では倒したモノの魂を吸収すると聞いたので、冒険者の魂のパターンの確認をしたのだと思う。
「僕たちの探索も、良い稼ぎになりましたよ。出てきた物も思ったより高値で引き取ってもらえたので、ココの滞在費は浮きました。」
アールス一行の迷宮探索も、成果は上々だったようだ。
食事を済ませた後は成り行きで解散する事になり、各々の部屋へ戻り始める。
オイラはいつもの様に演習場に向かうのだが、今回もミューがついてきた。
「えっと、今日ね何度も受け流しをしたからスキルが出たの!」
「凄いな、それで盾を買って喜んでたのか。」
「うん!ナナシノ、受け流しのスキル上げに付き合ってくれない?」
「うお?オイラに武術スキルなんて無いぞ?」
「そこは大丈夫!水系魔法の“水弾”を受けると受け流しのコツを掴めるらしいの。」
「なるほど、何かしらの攻撃を盾で受けるという練習か。」
「うんうん、水系の魔法を使う事でナナシノのスキル上げにもなるでしょ?」
演習場に到着し、道場に移動する。
道場と言っても、大広間を煉瓦の様な壁で仕切り、複数の部屋に分けられているだけだ。
やっぱり、この時間帯は利用者が殆ど居ない。食後の運動という習慣が無いのかも知れないな……
「んじゃ、お願いしまーす!」
「おう!」
☆導きの書☆を片手に“水弾”を指示した。
「水弾、握りこぶし大、目で追える速度。」
すっぴょこ☆
☆導きの書☆に魔力を通しながら、ふと思った……使った事の無い魔法だと。
思わず射出先を盾を構えているミューではなく、壁に向けた。
どびしぃっ!
「あ、あぶねぇ!」
「う……わ?」
壁が半分ほど崩れた……積んだだけの煉瓦の仕切り壁といえども威力が強すぎだ。ミューを盾ごとぶっ飛ばす気か?
「うをぃ!誰の目だったら追える速度なんだよ!?」
すすすっ☆
オイラの両手にガッチリ掴まれた☆導きの書☆は、挟んだ栞を隠すように答えた。「失敗しちゃった!」って感じ、か……?
「ミュー、ごめん!ちょっと待って!威力の調整するから!」
「了解~」
“水弾”を30発ほど撃ち試して、射出速度を調整した。感覚的には“水玉風船”を射出している様に思える。
「んじゃ、撃つぞ!」
「はいな、こーい!」
最初はシッカリ受けられるように単発で撃ち込む。
タン、タン……パシュ!パシュッ!
単調な作業に見えるが、ミューには受け流しの訓練、オイラには的中精度の訓練になる感じがしている。
「2連射だ。」
すっぴょこ☆
タタン……パシュビシ!
「にゃっ!?」
1~2分くらいで慣れてきたので、2連発撃ってみた。案の定、姿勢を崩されて驚いている。
オイラの方向に死角ができるように撃ったあと、その死角から更に撃ち込んだだけだ。
「うん、受け流した後の“残身”がなってない。連撃に対応できるように死角を意識して動くと良いよ。」
「死角……?」
「そう、水玉を受け流した後、盾で見えないとこが死角。盾で相手や魔法陣が視界から消えないような動きをすればいい。」
「相手や魔法陣が見える位置……うん、解った!やってみるね!」
なんて言ってみたが、オイラも簡単にそういう事が出来るわけじゃないだろうな……
試しに単発で撃ってみると、何と無くミューの動きが変わってる気がする。
続けて2連発撃ってみる。何度か撃ってみるとコツが掴めたようで、体勢が崩れなくなってきた。
タタン、タタン……パシパシュ!パシュシュ!
「ほほう、なんだか楽しくなってきたぞ。」
「ナ、ナナシノ……顔が怖いよっ!?」
オイラは死角を探しながら、的確に撃ち込んでいく。
ミューは死角に注意しながら魔方陣を見極めて、受け流していく。
なんて、10分ほど繰り返すとミューが音を上げた。
「ナナシノ!ごめん、疲れたよっ!ストップ!!」
「あ、あぁ……オイラの方こそゴメンな。つい楽しくなってな……」
休憩中はミューへの盾と回避と、カウンター攻撃の講義となった。
特にカウンター攻撃については、格闘ゲーム等のモーションを懐かしく思い出しながら熱く語った。
休憩の後は再度受け流しの訓練、続いていつもの魔力消費訓練を行って、本日は終了。




