70) また、白角ウサギなのね。
ミューが“可愛い”と仰る毛皮の盾を見る。あの毛並みは、どこかで……
「白角ウサギの皮?」
「白角兎?おお、良く解ったな?あの素材は対刃効果に優れているんだ。それと、表皮の部分は金属置換処理をしているので難燃性なのだ。さらに加えてだなっ」
ごっ。
「はいはい、ベッド使わせて貰うよ。どいたどいた~」
店員さんが華奢な鍛冶屋サンの後頭部を殴って昏睡させていた。後頭部殴打って流行なのか?
オイラとベッドを入れ替わった華奢な鍛冶屋サンは、安らかな顔で昏睡している。
「人の事言えないけど……アノ人、仕事や話に火が付いたら止まらないのよねぇ。少しは休ませてあげないと、ね。」
怖いよ、言葉じゃなく態度って言うけどソレはないだろ……
向こうで嬉しそうに盾を弄りまわしているミューを尻目に、小声で店員さんに聞いてみた。
「ところで、あの盾の値段なのですが……」
「ざっくり、金貨1枚ってトコだね。」
「解りました、買いましょう。」
「あら、値切ったりしないのかい?」
「自分の命を預ける装備を値切りたくは無いですね。吹っ掛けたと思うのなら、次の交渉で値引きして下さい。」
「おやおや、言うねぇ。そうさせて貰うよ、それで次の交渉ってなんだい?」
「あの盾に適したルーンはありますか?」
「いくつかあるよ、例えば“保護・防御・戦闘・成長・流動・認識”があるわね。」
「では“保護・防御・成長”のルーンで幾らになりますか?」
「良い選択さね。じゃあ盾も含めて金貨5枚でどう?」
「買った。」
「んじゃ、早速装着するわね。」
店員さんは、ミューから盾を受け取り部屋の向こうへと出て行った。
「ミューさんや、あの盾をプレゼントする事にしたよ。壊れた盾の替わりに使ってくれる?」
「結構高そうな雰囲気だったけど、良いの?」
「あぁ、さっき受け取らないって言ってた白ウサギのお金の一部で賄えたからね。それでいいかな?」
「なるほど!ありがとね。鍛冶屋さんがあの盾の性能は鋼クラスだって言ってた。前のは青銅だったの。」
「そかそか、その性能云々は全然解らないけど、クラスアップしたのは解った。良かったよ。」
「ナナシノ……後衛職だからって、装備品の事くらい気にしないとダメよ?あ、えっと……もしかして、その服装って普通の服?」
「大丈夫だ、問題無い。」
「うお?」
「えっ?」
後ろのベッドで昏睡していたはずの華奢な鍛冶屋サンが横になりながら答えた。
「私の鑑定では素材として特殊金属が編み込まれており、対刃と打撃等の威力分散の効果がある。中に装備している鱗鎧も大したものだ。」
「そうね、自己主張が全くない作りになっているわね。それだと誰が作ったか解らないし、一見普通の服に見えるのよね。」
ルーンを装着し終えた盾を持って、店員さんが戻ってきた。
「作った人は、試作品と言ってました。」
「それで試作品と言うのか?ニシキが聞いたら卒倒するな。」
「あはは、金属糸の編み込みで苦労してるからね。」
「あ、そういえば名前……オイラはナナシノと言います。」
「おう、ワシはササノだ。んで、連れのサラサだ。」
「わ、私はミューです。」
「ところで、この街にはどれくらい滞在するのかしら?」
「今日も含めると9日だと思います。」
「そうか、では何度か立ち寄ってもらえそうだな。」
「そうですね、依頼主が包丁を使うので次の機会にでも紹介しますね。」
「お客なら大歓迎よ、お願いするわね。」
次の来店を約束して、オイラ達は店の外に出た。
「ナナシノ殿!」
声を掛けてきたのは、イッチーだった。店の扉の前で仁王立ちになっている。
「良いよ、気になるんでしょ?」
「勝手ばかりで済まぬ。」
「あぁ、気にすんなって。ほら、解約方法知らんから好きにやっちゃって。」
どうやら、ここが気に入ったようだ。目的が見つかった者を止める無粋な真似はしたくない。
オイラは右腕を袖から出して、イッチーに向ける。イッチーは両手をオイラの腕に添えて目を閉じる。
「熱っ!?」
と思ったのも束の間で、痛みなどは残らなかった。そして腕の2本筋の間にあった赤い線が消えていた。
「って、良いってば!何してんの!?」
「不忠者で申し訳無い!」
イッチーが店の前で土下座をしている。精霊なので誰かに見られる事は無いと思うが、流石に気にし過ぎだろ。
「居場所を見つけられて良かったじゃん。駄目そうだったら戻ってくればいいし。」
キューはオイラの肩の上で声も出さず滂沱の涙を流している。シーちゃんは袖の中へ入ったきりだ。
まぁ、出会ってから数日しか経っていないが、情はある。別れるのはチョット寂しい。
少々、一人でゴニョゴニョ喋っているオイラに対する周りの目が気になり始めたので、離れることにしよう。
「あと9日は居るんだ、急な別れでも無いし。また来るよ。」
「済まぬ。」
腰を上げてその場を立ち去る。雰囲気を読んだからか、ミューは話しかけて来ない。気を使ってくれているようだ。




