69) オーダー品なのね。
「イッチー、お薦めの鍛冶屋って解るかな?」
町工場の様に並ぶ店舗の中で、オイラは鍛冶(火)の精霊に尋ねた。
イッチーはオイラの袖から飛び出ると、各店舗の屋根を見上げる。
「あれがココで一番良い煙かのぉ。」
「ありがと。」
イッチーは袖に戻る事もなく、歩き出したのでオイラ達はついて行く。
「ここじゃ。」
オイラに指を差してから、店の中へズンズンと入っていった。
「ちょ、っと?」
「ナナシノ、精霊さんのお薦めはここ?」
あ、そうか。ミューに精霊は見えないんだっけ。
店の中は……武器防具というより生活雑貨ばかり、包丁やナイフがずらりと並んでいた。
「いらっしゃい。」
「あ、えっと……」
奥から店員さんが出てきて、オイラ達に声を掛けた。勝手に奥へと入っていったイッチーが気になって返事が曖昧になってしまった。
「あら、珍しいわね。冒険者さん?それとも、新婚さん?」
「にゃっ!?ななななななな、ナナシノっ!?」
「防具を見せてもらいに来ました。」
「あら、そう?防具は、あまり作ってないのよねぇ。」
「なんとなく、気になる雰囲気でしたので……思わず入ってしまいました。」
「それは嬉しいわね、良かったら見て行って。」
「はい、遠慮なく見させて頂きます。」
オイラは片隅に飾ってある?盾を手に取って見た。飾り気の無い普通の盾に見える。
よく見ると、盾の裏側に隠れるような窪みが3つほと穿ってあった。もしかして“スロット”か?
あ、横でガックリしている猫娘サンは放置で良いかな。うん、放置で行こう。
「あぁ、そこに汎用ルーンを嵌める事が可能よ?」
「汎用ルーンですか?」
店員のお姉さんに“汎用ルーン”ついて説明を受けた。やはり盾の窪みはスロットの様だ。
ルーンは魔石や宝石を組み合わせたモノで、装備品に取り付ける事で、その付与効果が得られる。
汎用という点では、やはり規格が統一されたものであり、他の装備にも入れ替えて流用できるらしい。
「自慢に聞こえるかも知れないけど、同じ装備に3つ装填できるのは領内でウチの商品だけよ。」
「でも、売れていないと……?」
自慢できる商品なのに、あまり作っていないとなれば売れ筋ではない事が解る。
売れない理由は見た目、だろうな……
「飾り気が無いから、外見で判断されちゃうのよねぇ。まぁ、隣の領地に行けばもっと派手なのが買えるからね。」
「なるほど、カッコ良さですか。」
「高額なルーンを3つも装填できるなら、相応の装飾が望まれるのよ。」
「装飾で強くなるワケじゃないのにねぇ。」
「でしょ!アナタ“解る人”ねっ!?」
「いや、何の事だか解らん……」
「よっし!無料でオーダー受けちゃうよ!」
「あの……まだ買うって言ってない。」
店員さんに促されて、店の奥へと引き込まれた。
中は工房になっており、ゲームで見たような鍛冶場だった。
「アンタ!盾のサイズを微調整しておくれっ!」
「おうよ!で、どっちが装備するんだ?」
「あ、こっちの嫁の方で。」
「なっ!?ななんな!?うそっ!?いやーっ!」
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気が付くとベッドの上に居た。
「あ!気が付いた!?」
「うお?何故に?何があった?」
「ごめん、ビックリして思いっきり叩いた……」
「ビックリ?」
まだ少しクラクラする頭に手を添えて、何があったかのかを思い出そうとするが……記憶に無い。
「ナナシノが……あんな事言うのが悪いんだからね!?」
ちょっと拗ねたような言い方で、ミューが説明してくれた。
要するに、オイラの“嫁”という冗談でテンパったミューが、オイラの後頭部を強打した。そして昏倒。なるほど。
「しまったな……」
「何?どうしたの?」
「ミューの反応を見逃した。」
「はいぃ?何言ってんのよ?いい加減にしないと噛むよっ!?」
「はいはい、ごめんごめん。んで、ここはどこ?」
「うっわ、全然反省してない!叩いた私はこんなに落ち込んでたのに!?」
スッと部屋の入り口から店員さんが入ってきた。
あぁ、鍛冶屋の中で倒れてそのまま担ぎ込まれたか。
「あら、気が付いたのね。頭は大丈夫?」
「えぇ、少々変なのは元からなので、大丈夫です。」
カラカラと笑う店員さんの横から、続けて鍛冶屋の人が入ってくる。
鍛冶職って云うのはゴツイ人が多いのかと思ってたが、この鍛冶屋さんはかなり華奢なお兄さんだった。
「おう、面白いものを見せてくれてありがとな。礼と言っちゃなんだが、イロを付けておいたぜ。」
「そうそう、それに合わせたルーンを装填すると結構な盾になるわよ。」
誇らしげにミューが盾?を掲げて見せた。
毛皮だ、ただの毛皮にしか見えない。何だそれは?
「じゃーん!可愛いでしょ?」
「をい、見た目は関係無いと云っても、それは無いだろ……」
小型の盾の表面に白い毛皮が張り付けられた“毛皮の盾”だった。




