68) 意外と高額取引なのね。
「ナナシノさんや?」
「なんでしょう、ミューさんや?」
30体近くの黒ウサギとハイクラスだという赤角ウサギ、そしてボスクラスの白角ウサギ。
オイラが血抜き後の獲物を大きな袋に詰め込んでいる間に、ミューは宝箱2つの開錠が終わっていた。
「本当に冒険者登録してから間も無いの?」
「あぁ、2週間は経ってないと思う。」
「冒険者になる前は何してたか、聞いていい?」
「面倒事に巻き込まれたいのなら、話すけど?」
「えっと?既に面倒事に遭ったじゃない?っていうか、さっきの何あれ?」
「さっきの……?魔法の事?」
「うん、ナナシノは魔法使いなの?」
「まぁ、魔導士って事になってる。」
「でも、精霊魔法も使うのよね?」
「うん、手伝って貰ってるレベルだけどね。」
「全属性の魔法も使うって言うし……」
なんだか気不味い雰囲気になってきた。やはりポンポンと魔法を使ったりしない方が良かったかな……
ちょっと女の子と知り合いになれたからって、調子に乗ってしまった。
ちゃんと世界観をシッカリ学ぶべきだったのかも知れない。常識的なものが習得できていないようだ。
「ごめん、ミュー。やっぱりオイラは変だよな。危険な目に合わせてしまって申し訳無い。調子に乗ってやり過ぎた。」
「え?何で謝るの?違うって。ちゃんと出来ることを聞いていなかった私が悪いんだってば……」
「オイラが世間知らずなのは、十分に自覚しているんだ。それで迷惑を掛けることになって……危うく腕が無くなるとこだったし。」
「それは、大丈夫だったから問題無いの!」
「盾も……壊れちゃったよね、すまん。新調しないとな。」
「あ、うん。でも、もう謝る必要は無いからね?次謝ったら、噛むからね?」
迷宮を出るとまだ明るく、15鐘を過ぎたところだった。
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「これは保存状態が良いので、金貨10枚となります。」
「……」
「うお!?」
冒険者ギルドでの納入カウンターでオイラ達はビックリしている。金貨10枚というのは、白角ウサギ単体での買い取り価格だそうだ。
「ココまで完全な状態の毛皮だと、素材オークションに出品される事になりますね。そこでの落札価格から諸経費を引いた差額が後日振り込まれることになります。」
「えっと、追加で報酬が増えるという事でしょうか?」
「はい、中の魔石込みだと最低でも金貨10枚となりますね。魔石を抜く穴をあけた場合は価値が下がる恐れもありますので、そのままで取引させて頂けると幸いです。」
「どうする?ミュー?」
「どどど、どうするって?」
単純計算で行くと、普通の黒ウサギが1匹あたり銅貨10枚なので1万体分の値段だな。
しかし、傷が付いていない状態だとしてもミイラになった白角ウサギに価値があるのか?皮を取るにしても小さいし骨も然りだろうし。
「ミューさんや?売却で宜しいかな?」
「わ、私が意見できるわけ無いじゃない?ナナシノが仕留めたんだよ?」
「おお?パーティ組んでるんだから、均等分配でしょ?何か素材として白ウサは必要無い?」
「き……金貨10枚の素材で何作るのよ!?」
「んじゃ、売却でお願いします。」
「承知致しました。それでは手続きをしますね。」
金貨以上の高額取引の場合、納品書が発行されるらしい。オイラは認識票をチラ見しながら、納品書?に自分の“名前”を書き込んだ。
「以上で、手続きは完了です。支払いは現金にしますか?認識票に納入致しますか?」
「あ……この後装備を新調したいので、現金でお願いします。」
「承知しました。」
程なくして金貨10枚が手渡される。半分の5枚をミューに渡そうとするとドン引きされた。何故に?
「どしたの?受け取ってよ。」
「はいぃ?受け取れるワケ無いじゃん!?」
「いやいやいや、普通は均等分配じゃないのか?黒ウサだって均等にしたじゃん?」
「何言ってんのよ?こんなに受け取れないって!」
「仕方ないな……とりあえず押し問答しても埒が開かないから、防具屋まで行こう。」
「う、うん。」
防具屋は通りを挟んだ向かい側にある。武器屋と薬屋も同じだ。まぁ、需要を考えればこの配置は必然かも知れない。
ただ、良い品を置いてあるかどうかは別だとしても、だ。
装備品に関しては小柄ちゃん……もといニジーナさんから供給されているので、情報が疎い。
「ミューさんや、良い装備を買うにはドコ行けばいい?さっきのお金でミューの盾を新調したいんだけど。」
「それだったら、既製品よりオーダーの方が良いと思うから……鍛冶屋かな?」
その鍛冶屋は、通り3つほど離れた場所にあった。商店街というより町工場に近い雰囲気だ。
「なぁ?何やった?」
「にょ?ナナシノ?なに?」
オイラの言葉はミューではなく、首の裏を掻いている黒猫のキュー&シーちゃんの“精霊ズ”に対してだ。
鍛冶屋へ到着するまでの間に、何人かが後ろの方で崩れるように倒れていた。
まぁ、酔っ払いなどはよく居るので気にはしていなかったが、オイラとすれ違った人が倒れているので不思議に思って尋ねてみた。
「精神汚染。」
「怖っ!」
「でも、魔力使用の気配が無かったんだけど?」
「袖の中。」
「あぁ、なるほど……でもやり過ぎじゃね?」
「生殺与奪?」
「いや、疑問形で返されても……」
恐らく、冒険者ギルドで金貨の受け取りを見て、それを掏ろうと考えたのだろう。
そして、オイラから金貨を盗ろうとして袖の中に手を入れると……その中でシーちゃんの魔法が発動するってワケだ。
また、街中で魔法を行使する場合は魔力感知されて警戒されるらしいんだけど、袖の中は精霊界なので感知されないから問題無いのだそうだ。
「ナナシノ……話が見えないよ?」
「あぁ、ゴメンゴメン。精霊と話してた。もうちょっとブツブツ言うけど気にしないで。」
眉間に皺を寄せて様子を伺うミューであった。
書き始めてから1年3か月、三日坊主の飽きやすい自分が持続できているのは読んでくださっている方々のおかげです。ありがとうございます。




