62) 三人目と二度寝なのね。
『なんというか……森の精霊に話を勧められて、恥ずかしながら出て参った。気に障るなら直ぐにでも戻る故、言ってくだされ。』
『大丈夫だって!ナナシノは大丈夫だから、大丈夫だって!』
「あ、いや……キューさん?なんでテンパってるの?」
出てきたオッサン精霊の見た目は、肌は赤褐色、髪は角刈りで白髪か?ガッシリした体躯、顔は西洋風で……隻眼のようだ。
「まぁ、うちのキューが強引で済まなかった。お詫びと言ってはなんだけど、呑む?」
気の利くシーちゃんが背負袋からコップを4つ持ち出してきた。おいおい……皆で呑むのか?
とりあえず、全部のコップに酒を注ぎ呑み交わす。
『本当に申し訳ない、無理矢理押しかけた上に酒まで振舞って貰って。いや、先ほどの食事も主の物であったと聞いた。重ね重ねありがとう。』
「いやいやいや、気にしないで。キューが契約とか言ってるけど、オイラは精霊使いじゃないから無理強いはしないよ。」
『ナナジノォ……イッチーと契約してよぼぉ。』
「イッチーって誰よ!?」
『自己紹介が遅れましたな、ワシはイチモ・クテンと申す。火と鎚を得意とする精霊ですぞ。』
「オイラはナナシノと言います。冒険者やってます。」
イッチーこと、イチモ・クテンと名乗った精霊は、キューに語った様に身の上話を始めた。
火の精霊として産まれた後、鍛冶屋と契約してそのまま鍛冶の精霊へとランクアップしたそうな。
その後、数十年連れ添った契約主が他界してフリーになってしまったが、他の鍛冶屋と折り合いが付かず放浪するしか無かったと。
20年ほど精霊界と現世を行き来しては仕える主を探していたが見つからず、半ば消滅を諦めていたトコロでキューに呼び止められたそうな。
「しかし、オイラは鍛冶屋じゃないんだけどなぁ。契約しても大丈夫なの?」
『鍛冶に拘り過ぎていたのかも知れん。鍛冶の技量で研鑽を積めないのなら、膂力の底上げの為に体を鍛えるのも良いと思う様になった。』
「ま、いっか。オイラは契約しても問題無いっすよ。」
『ほらね!?普通は精霊は懇願されて契約するのに、ナナシノって偉そうでしょ!?』
『ワシは気にしないぞ?寧ろ契約してもらうことで活力が得られるのなら、ワシの方からお願いしたいくらいだ。』
「改めまして、よろしくお願いします。職業は奇術師です。冒険者初めて2週間です。」
『そして、超テキトーな性格で、何考えてるか解らないヒトです~。』
『さらに、変態』
『ほう。』
「いや!シーちゃん!?サラッと誤解を招くような発言しないでよっ!」
『ナナシノ殿、変態は良いとして魔力の方は大丈夫ですかな?』
「えっ!?変態発言は放置できるの!?」
『あ、ナナシノは魔力容量がバカだから、全然問題無いよ~。』
「キューさん!?もしかして酔うと絡む方ですか!?」
まぁ、貰えるものは全て戴くという気持ちで鍛冶の精霊“イチモ・クテン”と契約を行うことになりました。
右手の2本の間に赤い線が入り、なんだかオシャレになった。
なんだかよく解らないまま、オイラは宿屋へと引き返すのでした。
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「あっ!ナナシノ~!どこ行ってたのさ?」
「ちょっと森林浴。」
「夜中に村の外に出るって、危ないのに……」
「まぁ、大丈夫。森と夜の精霊が憑いてるから。」
「ナナシノ、お酒臭いよ?」
「あ、うん。精霊と呑んでた。」
「な……夜の森でなにしてんのよ。」
宿屋に戻り、食堂兼酒場で酒筒を一本買って背負袋に放り込んだ。イッチーに呑んでくれと伝えた。
宿泊する部屋は大部屋で、アールス達を含む全員で雑魚寝という形だった。ベッドなど無く、板の間に敷いた布団状のモノに各人が寝るようだ。
ミューは同じ部屋ということは気にしていないらしく、雑魚寝など至って当たり前だと言っていた。
まぁ、大部屋だから何かしらの“間違い”は起こらないんだろうな。
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「うにょっ!?」
夜中に、後ろからの小さな奇声で目が覚めた。
横向きに寝ていたオイラの背中に、何故かミューがガッシリと寝惚けて抱きついていたようだ。
オイラは一瞬驚いたが本人も驚いていたようで、こっそり撤退するミューの気遣いに黙って応えるべく“寝たふり”をしておいた。
そう、ナニかイベントがあったワケでは無い。単純に寝惚けていたのだと思う。
まぁ、寝間着の貫頭衣でシッカリ抱きつかれたので、イロイロと良い感触があったのだが……
「……」
あ、黒猫のシーちゃんがジト目でてオイラを見ている。
こういう時は、無言の方がプレッシャーを感じるのですが……解っていてやっているな?
よし、目を瞑って逃げよう。
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二度寝も成功して、無事に朝を迎えた。
「お、おおおお、おはよう、ナナシノ。」
「お、おう。おはようさん。ちゃんと休めたか?」
「う、うん。大丈夫。」
「そうか、今日も馬車だけど頑張ってな。」
着替えと洗浄の為に小さな個室に入る。先ずは服を全て脱いで、天井の魔法陣に手を添えて“浄化”の魔法を発動させる。
これで汚れというか、体表から剥がれるモノは全て剥がれ落ちてキレイサッパリだ。そういや、これで毛は抜けたりしないのかね?
こっちの世界で風呂が無いのは、この浄化魔法の所為だと思う。残念だが沐浴も無い。
次の使用者の為に、足元の簀子の隙間に汚れを掃って落とす。
全員が浄化と着替えを済ませ、荷物を持って宿を出る。
外で朝食を摂り、駅馬車へと乗り込む。
若干昨日と顔触れが違うが、この村で乗り換えがあれば当然の事だ。
昨日と同じようにオイラとミューに乗り物酔い対策の魔法を掛け、事もなく出発する。
七鐘から十六鐘まで馬車に揺られ、今回の目的地へと到着した。
「お疲れ様です、到着しました。これから領主の館へ挨拶に向かいます。手筈通りの対応でお願いしますね。」
アールスがオイラ達へ注意を促す。
要するに従者らしく振舞う事に専念すれば良いのだ。




