33) 旅立ちの時なのね。
ばたん、ぱたん。この森の生活で、最後の朝の音。
「勇者様、朝ですよ。起きてくださいませ」
「あ、あぁ……おはようさん」
あれ?白髪君はドコだ?帰っちゃったか?
「あ、五の白龍は帰ってしまいましたよ。やっと開放されたとか言ってました」
「そうか、それは良かったなぁ」
渋々共同生活を強いられたのかデレたのかは解らないが、白髪君も今日で元の生活に戻れるワケだ、うん。
普段通りに朝食を済ませて、ふと思う。明日からこんな食生活は無いんだよな……下手すりゃもっと悪いかも知れない。
「なんだか、寂しくなっちゃいますね」
「あぁ、短い間だったけど……ありがとな」
「あ……暗い雰囲気になりますね。これではダメです、折角の門出なのですから明るく行きましょう」
「そうだな、うん、そうだ」
小屋を出て、ユウコ龍の家に向かう。清々しい朝だというのに、緊張で息苦しい。
「よく来たのぉ、どうじゃ?呪いがスッカリ解けた気分は?」
「えぇ、お陰さまで……呪われる以前の様な軽い気分になりました」
「あいたたたた、そう来たか。合いも変わらず手厳しいのぉ」
というワケで、出立の準備タイムとなりました。
「まぁ、迷惑料と考えてもらって構わんよ。旅の準備はワシらの方で整えた」
「なんか……全部持って歩ける気がしませんよ?」
「それも対策済みじゃ、ホレ。イイ物がある“精霊付きの背負袋”じゃ、素晴らしいじゃろ?」
「あ、でも……大事なものは入れるとマズイんじゃありませんでしたっけ?」
「あぁ、大丈夫じゃ。それも手は打ってある」
「もしかして……その精霊へ荷物に手を出したらコロスとか、物騒な契約を結んでません?」
「お、良く解ったの?流石は腹黒勇者殿じゃわい」
「お褒め戴き、至極恐悦でございまする」
「くっ……褒めたつもりは無いんじゃがのぉ」
貰ったのは、精霊付き背負袋とキャンプセット、路銀、移動用の羽織、認識票、そして変な金属の塊だった。
「何でしょうか……この金属塊はオリハ・ルコンですか?」
「おお、解るか?しかし、普通のモノとは違うぞ?これはな……」
「長の話は長くなるので、某が簡潔に説明するでござる」
「宜しくお願いします」
「ぐぅ……長たるワシを何だと……」
軽く落ち込んでいるユウコ龍を放置して、青い龍の人が金属塊について説明をしてくれた。
オリハ・ルコンという金属にオイラの血を混ぜて精製し、龍の秘術を加えた魔道具だという事。
オイラの血は、前に腕を喰い千切られた際に採取したと……いつの間に何やってんだか、怖いよ。
んで、その効果は……
「精神感応金属、ですか?」
「うむ、勇者殿の思う様な形になるでござる。慣れるまでが大変でござるがな」
金属塊を手にとってみる……ヒンヤリとして気持ちがいい。
ソレに魔力を通す感じで水のイメージを持つと、ベチャッと床に零れた。水銀の様な感じだ。
続けて、氷をイメージしてみると、刺々しい氷柱形状なった。次は手元に戻って来るようにイメージを……
ざくっ。
「あだだだだだ……」
「勇者様、何をやっているんですか……」
手元に戻るイメージを流すと、金属塊はちゃんと戻ってきた。手の中にシッカリと……刺の先端も一緒に掌に収まっている。
「形だけ変わるんじゃ無いのね?意識的に動かせるのねっ!?」
「流石というか、何というかの……予想を超えとるわ、違う方向でな」
直ぐにヒスイちゃんが手の傷を魔法で治癒してくれている、ありがたい事です。
「それでの、こっちの羽織なんじゃがの、この……あ」
またも、ユウコ龍から説明の権利を奪い取った青い龍の人が話し出す。
この羽織は、ローブの上からでも装着出来るモノで、ローブに密着するような細工がしてあるそうだ。
動きを阻害しないように柔らかく、色も金属光沢のある黒に近い灰色。
説明では、隠密用に開発された布だそうで、纏うと視認され辛くなるとのコト。
裏側は明るく艶のない銀色で、砂漠などで使うのだそうだ。リバーシブルとは格好いいな!
「勇者殿の行動は、目立たない、回避する、を重点的にしとるようでの。なかなか面白そうじゃて」
「揉め事とか、痛いのはイヤですからね」
「あとは、認識票じゃ」
普通のドッグタグだった。首からぶら下げるやつ……ちゃんと2枚付いてるや。
死んだ時に回収しての報告用と、そのまま残して遺体の確認用の合わせて2枚……
ちなみに「認識票」にも、“血入り”で微量のオリハ・ルコンが埋め込まれているという。“龍の秘術”は入ってないそうだ。
そのオリハ・ルコンが身元確認用の魔道具となり、他人に奪われても使えないそうだ。
「最後は路銀と保存食じゃな、通常は其の辺の獲物でも狩って食べるんじゃぞ?」
保存食は30日分ほど突っ込んであるらしい。それだけあれば大丈夫な気がするんだが、持てる限り詰め込んだ。
あとは、サバイバルスキルは授業で受けたし、結界魔法もキャンプセットに入っている。路銀は金貨3枚分。
「それでは、そろそろじゃの」
「そうですね、お暇致します。ありがとうございました」
青い龍の人が“冒険者ギルドで渡せ”と自ら抜いた鱗を手渡され、更に通り名を教えてくれた。“蒼光”と言うらしい、名前から雷系統だと思う。
「それでは、行ってきます」
「ほほう、戻ってくる気かえ?いつでも遊びにおいで。手厚く追い返してやるわ」
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そして、ヒスイちゃんに乗せられて森の端まで到着っと。
「ここまで、です……頑張って下さいね」
「あぁ、ヒスイも頑張って出ておいで」
「あら……?“ちゃん”付けじゃ無くなりました?」
「そりゃそうだ、ヒスイには本当に世話になったし、尊敬もしている。それと最後くらい格好付けないとな?」
「ふえぇ……」
ありゃ……泣いちゃったよ?なぜ泣く?泣かせてしまったのか?どうしよう……どうすれば?
解らないながらも、考えて考えた挙句、そっとハグしてみた。一瞬驚かれたが、そのまま段々と落ち着きを取り戻してきた。
「絶対に、森から出て探しに行きますから、死なないで下さいね?」
「あぁ、またその時は背中に乗せてくれよな?」
ずっと見送られるのは嫌なので、ヒスイを追い返した後にオイラは商都へと歩き出した。




