10) 選んでみたのね。
「ほほう、魔法に階級とかあるのか?」
「ううん、隷属階級の人が好んで使うって意味よ?」
小柄ちゃんの豆知識(その3)が披露される。
重力制御の魔法は荷物運搬時に荷重を軽くするために使用するケースが多いという。
また、大きな荷物を持つ、運ぶというのは隷属の仕事であるという理念まである。
さらに、魔法的な属性が無いために誰でも使える“無の魔法”という位置付けまで成されている。
要は隷属が使用する属性の無い魔法なんて使えるか!ってイメージなのだそうだ。
生活魔法と呼ばれる簡易的な魔法も無属性魔法が多く、上流階級には不人気らしい。
「オイラ的には、身体強化魔法と組み合わせれば歩く程度は可能と思うんだよなぁ」
「なるほどね、その魔法陣が必要なワケね?」
「できれば、全軸同時入力方式……でいいのかな?一度触れると発動や停止が可能なヤツで」
「了解、作ってみるのよさ?」
「作ってみる……って誰が?」
「私よ?一応、魔法陣構築は一通りできるのよ?」
「すげー、そんな事まで出来るんだ?やるなぁ……」
「でしょ?褒めて褒めて、もっとほめて~!」
仔犬のように体を揺すって喜ぶ小柄ちゃん。
それにしても、権威者なのに威厳の欠片も見られないって……ある意味すげーよなぁ。
「それじゃ、明日持ってくるね?」
「おう、よろしく頼みますわん」
夕食の時間になり、小柄ちゃんは出て行った。
午後からの解呪生贄のバイトの後に身体強化魔法も受け、少々は動ける。
そのお陰で1時間は掛かっていた食事が10分程度で完了した。
そして、夕食後の小柄ちゃんの解呪スキル上げ開始までに30分以上時間が余る。
「何しようっかな~?」
(おっと……独り言じゃないか)
オイラはちょっとした恥ずかしさを覚えながら、魔法陣が描かれた羊皮紙に視線を移す。
(そういや、アレって魔導書って言ってたなぁ。挟むんだっけ?)
続けて先日オイラに特攻してきた(?)魔導書を手に取る。
相変わらず、頑として閉じたままだ。
「どうやって、魔法陣を挟めば良いんだか……」
独り言も気にせず、手に魔導書と魔法陣を取り上げる。
魔法陣を挟み込んで、バインダーやスクラップブックの様にするらしい。
もしかすると、開かないなら魔法陣を押し付けたら吸収するかも……と思い重ねて見ると。
ばふん!
「うおっ!?」
魔法陣が喰われた、見事な噛み付きっぷりで。
魔導書が魔法陣を『食べた』。まるで、啜る様に取り込んだ。
そして……『んぺっ』と吐き出した。よく見ると、魔法陣の無いクチャクチャになった羊皮紙だった。
「うぉおおおおお!?」
ひと呼吸置いて、オイラは叫んだ。信じられないが魔導書は魔法陣を『喰った』。
しかも、羊皮紙に描かれた魔法陣の模様だけを。
ふた呼吸して、興味が湧いた。
「まだ、食べるか……な?」
適当に選んだ魔法陣を魔導書に投げる。
ばふん!
未知の生物に出会ったかの如く、恐る恐る幾つかの魔法陣を食べさせてみた。
どうやら一度食べた同じ魔法陣は食べないが、その上位は食べるという事に気付いた。
「おおう、オヌシもグルメよのぉ……」
なんだか餌付けしている様で、段々と楽しくなってきた。
「入るね~?」
小柄ちゃんがコンコンとドアを叩くと同時に部屋に入ってきた。ノックする意味がないよな……
「食事はすんだかな?準備するよ~?」
「なぁ、この魔導書……凄いんだが!」
「当たり前じゃん、レア素材で作られているのよさ?」
「いや、そうじゃなくて……コレ、魔法陣を食べた」
「はい?ソレが魔法陣を食べたって意味?」
「そう、バクっと食べた!」
そう言って、まだ取り込んでいない種類の魔法陣を魔導書の上に乗せた。
「……?」
「……」
何も起きなかった。
「……で?」
「おお?さっきは食べたのに、何故にっ!?」
魔導書を持ち上げてみる、変化なし。
強く振ってみる、変化なし。パンパンと叩いてみる、変化なし。
頭の上に掲げてみた段階で、小柄ちゃんが冷たい視線でオイラを射抜いた。
「さ、どーでも良い事は置いといて、私の解呪レベル上げに付き合ってよ?」
「おっかしいなぁ?ほら!食べた後に出すものも出したんだけど……」
すっかり相手にしてくれる素振りも見せなくなっていたので、渋々オイラは解呪スキル上げの生贄になる。
そして、淡々と魔道具が切れるまで解呪を受け、続けて気不味い雰囲気はそのままで掃除を始める。
「また明日ね~。そうそう、無の魔法陣は朝にはできると思うから持ってくるのよさ?」
小柄ちゃんはヒラヒラと手を振りながらドアを閉め、出て行った。
ごっ!
閉めたと同時にオイラはいきなり誰かに鈍器の様な物で殴られ、意識を失った……




