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河川敷にて  作者: 村上しのぶ


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9/13

そういうことを願うのは、案外まともなことかもしれません。

「1999年か。そのとき私はどうしていたかなあ」

 滝村さんは、遠くの空を見上げるようにした。

「ああ、そうそう、思い出した。ストリップ通いをしていた頃です。ああ言うところに行くとね、もう、まるで魚の死んだような目をした人がいるんです。お客さんの中に。ここにしか希望を見出せなくなったような人たちが。何人もいるんです。いつもいるんですよ。いつ行っても、かぶりつきの一番いい席に陣取っているんです。最初、この人たちは、仕事何してるのかな、とか、お金どうしてるのかな、とか思いましたけど、すぐに考えるのをやめました。それよりも、なんだか世の中捨てたもんじゃないなあ、と思いましたよ。なぜか。この人たちがいるうちは、世界が滅亡することはないな、なんて思ったりしました」


「滝村さんは、世界が滅亡してしまえばいいのに、って考えたことないですか?」


 私がこんなことを聞いたのは、それが良くあることだ、と思っていたからだった。


「どうでしたかねえ?それって一種の希望ではないでしょうか」

「希望?」


「ええ。何かを願うのは希望でしょう。たとえそれが世界が滅びてほしい、という願いだったとしても」

「希望、ですかね……?」


 滝村さんは、空に向けていた顔をこちらに向けた。


「そういうことを考えるのは、案外、まともなことかもしれません」

「そうでしょうか」


 滝村さんは、また顔を空に向けた。


「私は、そういったことすら考えられなくなっていたと思います。前に話したと思いますけど、ウチの親は毒親で。両親だけじゃなくて、祖父母も、兄も姉も毒でした。何もかも、彼らに指示されていました。私の人生のことは全部彼らが決めてしまっていたんです。将来のことはもちろんのこと、服装や持ち物から、誰と友達になるかまで、全部です。そればかりではなく、恋愛のこともそうなんです。あれは小学校に入ったばかりのことでした。近所に少しかわいい女の子がいたんです。だからといって、その頃はまだなんとも思っちゃいません。異性を意識するなんてことはありませんでした。でも、急に母親に言われたんです。あなたはあの子を好きになりなさいって。急に何を言い出すんだろう、この人はって、今ならそう思いますけど、当時はただ、よく分かりませんでしたよ。でも、その日からその子のことを急に意識するようになってしまって。それまでなんとも思っていなかったし、普通に接していたのが、急にダメになってしまったんです。もう、その子の声が聞こえただけでダメなんです。顔が真っ赤になってしまうんです」

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