風俗の女性の前では、リラックスして自分を出せるんです。
「どうなったんですか、その後?」
「どうにもなりゃしません。ただその子とまともに話せないし、顔も見れない、それだけです。母親とも、その後そんな話はしませんでしたし、母親自身、自分が言ったことを忘れていたんだと思います」
「そうなんですか」
「でもそのときの体験は、その後の私の心に大きな影響を与えました。しばらくは、ずっとその子を意識していました。それが好きという感情だったかは分かりません。ただ、意識してしまうんです。顔が真っ赤になって、手のひらに汗をかいてしまう。呼吸が難しくなります。それが3年生ぐらいまで続いたでしょうか?5年生のときに、初めて他の子を好きになりました。でも好きという感情よりも、私の中にあったのは罪悪感だったんです。この子を好きになってはいけないのではないか、やっぱり母親が好きになれと言った子を好きになるべきなのではないか、そんな葛藤に苛まれていました」
「そうだったんですか」
「はは、面白くないですよね、こんな話。ごめんなさい。石部さんが相手だと、つい色々と話したくなっちゃって」
「いえ、構いませんよ」
「それからずっとです。それから、何人もの女の子を好きになりましたが、誰とも上手な関係を築くことはできませんでした。ただ唯一、仲良くなれるのが、風俗の女性だったんです。なぜでしょうね?彼女たちの前だと、私は自然と振る舞えるんです。明るく振る舞えるんです。風俗に行くのは、世間的には後ろめたいことかもしれません。でも、彼女たちの前では、リラックスして自分を出せるんです」
滝村さんは、しばらく遠くを見ていた。
その横顔は、ビールの苦さを喉の奥で噛み殺しているように見えた。
彼は飲んでいた缶ビールをグイッと飲み干すと、新しい缶ビールの蓋をプシュッと開けた。
私も同じように、新しい缶ビールを開けて、グビグビと飲んだ。
缶ビールはもうだいぶぬるくなっていて、旨さよりも苦味が勝っていたが、その苦いのを積極的に喉の奥に流し込んだ。
堤防の上を、自転車に乗った数人の外国人が通り過ぎていった。
アジア系で、男も女も混ざっていて、どこかの国の言葉をけたたましく喋っていた。
「増えましたね、外国人」
私はポツリと言った。
別になんらかの意図を含んだものではなく、条件反射的に出た言葉だった。
「ええ、どこ行っても見かけますね」
「どうなんでしょう。そのうち風俗嬢にも、外国人が溢れる、なんて時代が来るんでしょうか?」
これは興味本位だった。下卑た興味本位だった。
だから、別に取り合ってもらわなくてもよかったのだが、滝村さんは真剣に答えてくれたみたいだった。
「いや、逆に日本人が職を失って、日本人の女の子が増えるんじゃないでしょうかねえ」
それを外国人の男が買いに来る映像が頭に浮かんで、私はまた苦いビールを飲まざるを得なかった。




