子供が出来なかったから良かったんです。
柄にもなく怒りが込み上げてきた。
「政治家は何をしているんでしょう」
「あいつらはアジアで女を当てがわれてるんじゃないでしょうか」
「ああ」
妙に納得がいった。
それで急に沸いてきた怒りが、静かに去っていった。まるでビールの泡が弾けるように。
何を、柄にもないことをやっているんだろう。
選挙だって行かないくせに。
滝村さんみたいに、鷹揚に構えていればいいのだ。
自分が小さく見えて、嫌悪した。
「石部さんは、でも、関係ないでしょう。奥さんがいらっしゃるんだから」
「まあ、そう言われれば、そうです」
「結婚する前は、確か水商売でしたっけ?」
「ええ、スナックです」
「いいなあ。私もそういうところに馴染める人間なら良かったんですけどね。飲み屋さんの女性は苦手なんです。もっぱら風俗専門なんでしょうね」
「私も、そんな得意ということではありませんけど。たまたまです」
「たまたま?」
「はい。需要と供給が一致したんです」
「需要と供給。面白いことを言いますね」
私は、妻と出会った時分のことを思い起こしていた。
「あいつは、ただ子供が欲しかったんですよ。私と出会ったとき、もう35歳になっていて。焦っていたんだと思います。それだけです。誰でも良かったんですよ。子種として雇われたようなものです」
「そうなんですか」
「スナックのホステスをやるぐらいですし、元々綺麗な人です。でも、私と出会った頃には、もう少し容色は衰え始めていました。若い頃からモテてきたんだろうな、と思います。いろんな男と数々の恋愛を経験してきた、という雰囲気がありました。だから私みたいな社会不適合者とも、うまくやれたのだと思いますけど。でも、どれも最後まではうまく行かなかったみたいですね。恋愛に疲れたような雰囲気もありました。そこに手頃なところに私がいたんです」
「そういう女性と結婚したら、私だったら、浮気されないか心配になります」
「その頃、私はサラリーマンから完全に足を洗って、一冊目の絵本を出版したところでした。それできっといけるぞ、という気持ちになっていたんでしょうね。私も同い年で、独身でしたし、このチャンスを逃したら次はないな、と思っていましたから。結果的に彼女と結婚したことは良かったと思います。子供はできなかったけど、一応、浮気されたことはない、と信じています」
私は今朝見た選挙演説を思い出し、今の社会情勢について、素早く思いを巡らした。
「子供ができなかったから良かったんです。子供がいたら、やっていけていません」




