石部さん、ザイムって知ってますか?
「子供……、ですか」
「できなかったから良かったんです。だから二人でなんとか暮らしていけてるんです」
「子育てなんか、できるんですかね、我々に?」
滝村さんは、最後謎めいた問いかけをして、飲み干したビールの缶を、くしゃっと潰した。
別に、何かに怒りをぶつけるような潰し方ではなかった。
「そろそろ行きましょう」
と、彼は立ち上がって、ズボンのお尻をパンパンと払った。
「いつまで待っていたって、野球は始まりません」
「ええ」
私も立ち上がって、お尻をパンパン払った。
「プレイボール」
「プレイボール」
木陰から出て、歩き出した。
日が照っているところに出ると、ジリジリとした熱に焼かれた。
少しクラクラする感じがあった。
「いくら木陰とはいえ、こんな日に外でビールなんて飲むもんじゃないですね。熱中症にならないように、水を飲んでおいた方がいいですよ」
と、滝村さんは言った。
「ビールごちそうさまでした」
「こちらこそ」
我々はその場で別れることにした。
しばらく一緒に歩き、とうとう道が二つに分かれるところまで来て、滝村さんはこう言った。
「石部さん、ザイムって知ってますか?」
「ザイム?」
「ええ、なんか最近、よく聞くんですけど」
「さあ?新手のKPOPか何かじゃないですか」
「まあ、どのみち我々には関係ないですね」
「そうですね」




