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河川敷にて  作者: 村上しのぶ


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13/13

あなたには、それしかないのよ。

 家に帰る前に、ショッピングセンターに立ち寄って、涼んでいくことにした。


 ウォータークーラーの水を飲んで、食品売り場で塩飴を買って舐めた。


 中をブラブラして、外の熱気が治まるのを待ってから、歩いて帰宅した。


「ただいま」

「おかえり」


 私は家の中に明子の顔があることにホッとしたのだが、それは今朝ここにあったときよりも、少し老けているように見えた。


 彼女はささやかな夕食の支度をしてくれていた。


 焼きうどんに、スーパーのお惣菜のパックといったものだった。


「買えなかったのよ」

「え、何が?」


 明子は何とも言えない不幸そうな顔で、しばらく私を見た。

 私は明子のそういう視線が、たまらなく嫌で、家から出て行きたくなった。


 そして、

「備蓄米」

 と彼女は言った。


「ああ」


 そう言えばそうだった。

 肝心なことを忘れていた。

 明子があんな目で私を見るのも、無理はなかった。

 私はさっきまでショッピングセンターにいたのに、売り場に備蓄米があるかどうかさえ、気にせずにいたのだ。


「今度から僕もいろいろ探してみるよ」


 と言ってはみたが、明子は不幸そうな顔はそのままで、黙って食卓に目を落とした。



 そこで、私は食卓の上に、白い錠剤の入った新しい薬の瓶があるのを見とめた。


「あれ、どうしたの、これ?」

 と聞くと、明子は、

「最近、眠れないから」

 とだけ答えた。


 私たち二人は、何も会話のないまま、淡々と食事をした。

 私は何か言ってしまうと、明子との間にある溝が深まってしまいそうで怖かった。


 ふと、明子を失ったらどうなるのだろう、という念に駆られた。

 どうするのだ、と自分に問いかけて見ると、それは嫌だな、と、子供じみた答えが返ってきた。


 プレイボール。


 なぜか、さっきの滝村さんの言葉が蘇ってきた。


「ねえ」

 食事を終えると、明子は顔を俯かせたまま、唐突に声を上げた。


「また絵本、描いてよ」

「うん」

「あなたにはそれしかないのよ」


 明子は俯いたまま、ずっと嗚咽を上げていた。

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