↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
河川敷にて  作者: 村上しのぶ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/13

世界が滅亡してくれと、私は真剣に期待していた。

「どう思われました?」

「うーん、また風俗に行けるぞ、ってぐらいですかね」


 風俗通いが、滝村さんの唯一の趣味と言って良かった。


「石部さんは行ったことないんでしたっけ、風俗」

「ええ」

「奥さんがいますからねえ。羨ましいなあ」

「若い頃に行っておけば良かったな、なんて思いますよ。あいつと出会う前、月給取りだった頃に」


 私は遠い記憶を思い出していた。


「石部さんには、奥さんがいらっしゃって、スーツを着てサラリーマンをやっておられた経験がお有りになる。どちらも私にはないものです。風俗なんか経験しなくてもいいですよ」

 と、滝村さんは自嘲的だかなんだか分からない調子だった。


「いえ、ブラック企業ですよ。就職氷河期でね。せっかく就職できたと思っても、こんなところで働くくらいなら、できない方が良かったかな、と今になって思います。あのとき身を粉にして働いた経験は、その後なんの役にも立っていません。でも、当時はそんなこと考えませんでした。こんなところでも、職があるだけマシだ、なんて本気で思っていたんですから。まったく、社会に洗脳されていました」


 私は喋り過ぎたかな、なんて思いもしたが、もうどうでもいいや、という感じがしたので、続けることにした。


「私は、期待してたんですよ」


「何を?」

 と、少し間を置いてから返事があった。


「今でも鮮明に覚えています。1999年の7月31日のことでした。処理しても処理しても終わらない書類の山に囲まれて、13階の会社の窓から東京の夜空を眺めていました。時計の針はもうじき深夜を回るところでした。どうすんだ、もう7月が終わっちゃうぞ、と。世界が滅亡しないまま、8月になっちゃうぞ、と。ノストラダムスの予言が、当時の私の唯一の希望だったんです」


「それはそれは」


「この世界が滅亡してくれと、私は真剣に期待していたんです」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。