みんな立派なのがいいんですかね?
しばらく歩くと、野球場が見える場所まできた。
私は練習風景が見えないかと思ったが、流石にこの時間に外で練習している選手はいなかった。
我々は木陰を選んで芝生に座ると、持ってきた缶ビールを開けた。
「なんかこういう風景を見ると、落ち着きますね」
と、私は野球場を眺めながら、永遠に対して言うように言った。
「本当です。でも、ここももうすぐ引っ越しちまうみたいですよ」
と、滝村さんは言った。
「え、そうなんですか。どこに?」
「なんでも、茨城の方に立派な施設を作ってるんだそうです」
「立派な施設、ですか……」
私はがっかりして、目を落とした。
足元の芝生では、アリたちの解体作業が行われていた。
体が半分になったバッタが、カラカラに乾いていた。
私はビールをゴクゴク喉に流し込んだ。もうぬるくなっていた。
「また一つ、昭和が消えますよ」と滝村さんは遠くを見ながら言った。「昔は良かったですよ。私はこっちに来る前、子供の頃は、多摩川べりに家があったんです。よく河川敷に行っては、野球の練習を眺めたものですよ。あの頃はよかったなあ。巨人も日本ハムも、河川敷だったんです」
「最後に残った聖地が消えますね」
「みんな立派になっていきますね」
という滝村さんの台詞は、誰か別の人に言うみたいだった。
「みんな立派なのがいいんですかね?」
私は中途半端に、指でビールの缶を凹ませた。まるで子供が拗ねているみたいだな、と思った。
生暖かい風が、ひゅうっと首筋を撫でていった。
「ねえ、滝村さん」
と、私はおもむろに話題を変えた。そうしてもいいような気がした。別に、会話があっちこっち飛んだっていいじゃないか。そんなことしたって、風が咎めるわけでもなし。
「過ぎちゃいましたね、7月5日」
「ああ、そういえばそんなこともありましたね。私も過ぎてから気づきました。あれ、なんだもう過ぎてるじゃないかって」




