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側役と護衛騎士

 皇宮で行われた皇孫フィルンハルトの開くお茶会で、新たな友人と知り合ったミレイユ。

 数日後彼女は兄セルヴェンに連れられタウンハウスの敷地にある訓練場へ来ていた。


 「護衛騎士、ですか?」

 「ああ、伯爵家の連中のように君に無礼な振る舞いをする者や、神殿の連中のような君を狙う者達から守る為に着ける事にした」

 兄や彼の補佐官を務めるハインツと共に訓練場内を歩くミレイユ。

 お披露目パーティーの前に、ミレイユへ暴言を浴びせたり暴力を振るったオルフィア伯爵家のような輩がまた現れないとも限らない。

 そして神殿勢力も彼女を狙っている事が分かった以上、護衛騎士を付けるべきだとセルヴェンと父ハーヴェント大公は考え、騎士団の中で人選を行っていたのだ。

 

 「そ、そこまで必要な事なんでしょうか……?」

 「それは勿論です。大公女殿下はそのお力だけでなく素晴らしい物を考案される才能もございます。よからぬ事を考える者が必ず現れます」

 「ハインツの言うとおりだ。そして君は私達の大切な家族なんだ。家族の身を守る為ならこれくらいは当然さ」

 「ありがとうございます、兄様、ハインツ」


 ミレイユは胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。前世でも、大公家に引き取ってもらうまでは得られなかった家族の愛情が、今はこんなにも溢れている。

 伯爵家での地獄のような生活が噓のようだ。あの家では母の知り合いだという家令が隠れて食事を与えてくれた以外は、皆彼女の事を蔑み虐げてきたのだから。


 「私、家族にこんなに大切にしてもらえるなんて……本当に幸せです」


 胸の前でギュッと両手を握り、嬉しさで瞳を潤ませながらも幸せそうに微笑むミレイユを見て、二人も微笑みセルヴェンは彼女の頭を撫でる。

 

 「これは若様、そしてようこそお嬢様、私は大公家騎士団の団長を務めますベンレックと申します」

 「ベンレック団長、今日はどうぞよろしくお願いしますね」


 恭しく一礼するベンレックにミレイユは優雅にスカートを摘んで挨拶を返した。彼は四十代半ばのいかにも歴戦の騎士といった風貌で、体の至る所には大小様々な傷跡がありその功績を物語っている。

 彼の背後には多数の騎士が整列して待機しており、その先頭には二人の男女が立っていた。


 「若様、お嬢様の護衛騎士についてですが、専属の者を二名選抜しました。お出かけなどの際には都度他の騎士達も参加させ護衛を務めます」

 「大公子殿下、大公女殿下にご挨拶申し上げます。大公家騎士団に所属するエミリアと申します」

 「同じく、大公家騎士団に所属するラズフォードと申します」


 胸の辺りに右手の拳を当て名乗り一礼する二人の騎士、短めの藍色の髪に青い瞳の若い騎士ラズフォードと、金髪を結い上げ炎の様な赤い瞳を持つエミリアと名乗った若い女騎士を前にあ、とミレイユは声を漏らす。


 「お披露目の時の騎士さんですね。あの時は助けてくださりありがとうございます」

 「勿体ないお言葉です、大公女殿下。自分がもっと早く来ていれば御身にお怪我などさせる前に、あの狼藉者達を捕えれていました……」

 「自分を責めないでください。貴方が来てくれなかったら私はもっと酷い目に遭っていました」


 大公女としてお披露目を迎える直前、元家族であるオルフィア伯爵家の子供達に罵声を浴びせられ暴力を受けた際に、ミレイユを助けたのがエミリアだ。

 自分がもっと早く来ていればと、申し訳なさそうに視線を下げるエミリアにミレイユはそっと歩み寄り、自分を責めないでと首を振る。

 彼女の言葉に顔をあげたエミリアは、ありがとうございますと口にし深々と頭を下げた。


 「エミリアもラズフォードも騎士団でも腕利きの者達です。お嬢様のご安全を身命を賭して守る事でしょう」

 「よろしく頼んだぞ二人とも」

 「はっ、お任せください大公子殿下」

 「必ずや大公女殿下の身をお守りいたします!」

 「ありがとう、頼りにしてますよ二人とも」

 

 ベンレックの言葉に鷹揚に頷くセルヴェン。彼の言葉に敬礼で応える二人の騎士にミレイユも微笑んだ。

 エミリアとラズフォードを伴ってミレイユ達は屋敷の方へと戻り、ハインツから会わせたい人物がいると紹介を受ける。


 「大公女殿下、お初にお目にかかります。ハインツ様の元で指導を受けておりますユリウスと申します」

 「ユリウスは私が目をかけてる側役候補でしてね。実務能力に長けています。お嬢様のアイデアを実現するのにお役に立つかと」


 優雅な動作で一礼したのは礼服に身を包む黒髪の眼鏡をかけた少年だ。年の頃は十代半ばくらいだろうか、知的な雰囲気を漂わせる美少年である。

 これまでミレイユは思いついたアイデアを兄の補佐官であるハインツに相談していたが、ハインツは専属の側役を付け、自分や各方面との調整役を任せようと考えたのだ。


 「はじめましてユリウス、これからよろしくお願いしますね」

 「はい、貴方様にお仕えでき大変光栄に思います。大公女殿下のお役に立つ為に、持てる力の全てを尽くします」


 頭を下げるユリウスにミレイユは手を差し出す。彼はその手を取り跪くと恭しく口付ける。

 護衛騎士に新しい側役、彼らと親睦を深めたいと考えたミレイユは、兄やハインツに挨拶をすると、騎士やユリウス達と共に敷地内の東屋で茶会を開く事にした。


 


 「リンディ、この人達が私の護衛騎士をしてくれるエミリア卿とラズフォード卿、それに側役をしてくれるユリウスよ」

 「は、初めましてっ、お嬢様のメイドを務めますリンディと申しますっ! よ、よろしくお願いします!」

 「ふふ、緊張しすぎだよリンディ」


 東屋には先にリンディが準備を整えてミレイユ達を待っていた。緊張のあまり声を裏返し深々と頭を下げるリンディにミレイユはクスリと笑い、エミリア達も気にしないでと返す。

 3人にも着席を促すと、ミレイユはリンディが淹れた紅茶を一口飲んだ後に口を開く。


 「改めてよろしくお願いしますね。3人とも楽にして良いから」

 「いえ、そういう訳には……」

 「そうですか? それじゃあお言葉に甘えまして……よろしくお願いしますよ、姫さん」

 「ラズフォード卿、貴方主人である大公女殿下にそのような軽い口の利き方は……」


 兄やハインツの前と打って変わった態度を取るラズフォードに対し、同僚であるエミリアは眉をしかめて嗜める。

 しかし当のミレイユは軽口を叩くラズフォードに、フッと肩の力を抜いたように微笑んだ。


 「ふふ、そんなに畏まらなくても大丈夫ですよエミリア卿。そうしてもらった方が私も気楽ですから」

 「……大公女殿下がそれで宜しいのでしたら」

 「さっすが、姫さんは話が早いですね」


 ラズフォードが軽薄そうな口調を改める気配がないのにエミリアは小さくため息をつく。

 この男は腕が立つのだが、この軽薄は態度は頂けない。自分がしっかりしなければと彼女が呆れていると、ミレイユに向けてラズフォードが話し始める。


 「聞いてくださいよ姫さん、エミリアは絶対に姫さんの護衛騎士になるぞって、周囲がドン引くくらいに意気込みましてね。選抜は模擬試合のトーナメントで行われたんですが……」

 「ちょ、ちょっとラズフォード卿! 余計な事を言わないでください!」

 「ト、トーナメントをする程の人数が集まったの?」

 「そりゃあ勿論ですよ。姫さんは騎士達の間でも人気が高くてお仕えしたいって思う奴は沢山居て、団長が選抜を行うって言った時は我こそはって皆手を挙げたもんです」

 「あー、やっぱり人気が高いんですねミレイユお嬢様……」


 エミリアが慌ててラズフォードの口を塞ぎにかかるが、時既に遅し。聞き捨てならない事実を聞かされたミレイユはパチクリと目を瞬かせ、傍に控えるリンディは納得のいった表情で頷いていた。

 大公家に迎え入れられた愛らしいミレイユは使用人達の間でも人気であり、祖母であるマーサが彼女が来た頃から世話をしていたという事、年も近いからミレイユが接しやすいだろうと理由で自分も専属メイドに抜擢されたが、同僚や先輩達からは随分羨ましがられたものだ。


 「専属騎士を二名選抜するって事で、二つのトーナメントが組まれたんですが、エミリアはそりゃ鬼気迫る勢いで並み居る先輩騎士達を勝利して見事優勝しましてね。いやー、あれは見物でしたよ」

 「ちょっ、ラズフォード卿、それは本当に恥ずかしいので止めてくださいっ!」

 「ふふ、そんな熱意のある人に騎士を務めて貰えるのは嬉しいですよ、エミリア卿」

 「大公女殿下……私は、あの時の様な事が二度と起きないように、貴方様を側でお守りしたいと強く思ったのです。このお気持ちに嘘偽りはありません」


 エミリアは立ち上がると片膝を付きミレイユへ深々と頭上を礼をし澄んだ赤い瞳で彼女を見上げる。その身振りからは、騎士として主君たるミレイユに絶対の忠誠を誓う気概が伝わって来る。

 ミレイユも椅子から立ち上がりエミリアへ歩み寄ると、その手を取って微笑んだ。


 「エミリア卿、顔を上げて。どうかこれからは私の傍で貴方の剣で私を守ってください」

 「……! はい、命に代えましても」


 輝くような笑みを見せるミレイユに胸を熱くするエミリアは感激の涙を浮かべて深く頷いた。それを見守るリンディやラズフォード、そしてユリウスも微笑ましそうに見ている。

 

 「俺も姫さんをお守りしてみせますよ。任せてください」

 「ええ、期待してるわ」


 ミレイユの手を取って立ち上がるエミリア、それに続くように、姫さんは俺が守りますよとミレイユに胸を張るラズフォードに彼女も笑顔で返す。

 それじゃあお茶の続きをしましょうと促し、皆席についてお茶会が再開される。

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