大公家の愛され公女様 (8/18加筆修正)
短編で投稿した物を評価やブクマしていただきありがとうございます。
大幅に加筆し、短編の続きも描いた長編を投稿する事にしました。
8/14 ミレイユの年齢を間違えていたので修正しました。 正しくはこの時点での年齢は九歳です
「お嬢様、ミレイユお嬢様、そろそろお目覚めのお時間です」
「ミレイユお嬢様、朝ですよー」
豪奢なベッドに眠る、美しい銀髪を背の半ば程まで伸ばした年の頃は九歳くらいと思われる少女。寝間着姿で眠る彼女へと声をかけるのは焦げ茶色の髪の老齢の女性と、同じく焦げ茶の髪の年若い少女だ。
メイド服姿の二人が声をかけると、ベッドに眠る少女を小さく声を漏らした後に、ゆっくりと目を開ける。その瞳は宝石の様に美しい菫色だ。
「おはようマーサ、リンディ」
「はい、おはようございますお嬢様」
「おはようございますっ」
小さく欠伸をしておはようと口にする少女、ミレイユへと彼女付きのメイドであるマーサ、そしてその孫娘で補佐をしているリンディは揃って一礼した。
身支度をお整えしますと動き出す二人を眺めながら、ミレイユはベッド側にあるバスケットに敷かれた布団へと顔を近づける、そこには妖精の様な姿をした小さな少女が眠っている。
「ユーリィ、朝だよ。起きて」
『ふにゃ……?ふみゅぅ……おはようですー、ミレイユちゃん』
「はい、おはようユーリィ」
ミレイユが声をかければ、フルフルと首を振って可愛らしい声を出した後に目を覚ます少女ユーリィ。
背中に翅の生えた彼女はこの世界の理を司る精霊で、ミレイユの友人である。
目を擦っていた彼女が指を鳴らせば、彼女の身体は光に包まれ身綺麗になり、腰の辺りまである金髪はツインテールに結い上げられた。
その様子を眺めていたミレイユも、お支度を致しますと一礼するマーサに頷いて腰かけていたベッドから立ち上がる。
マーサとリンディによって身支度を整えられ可愛らしいピンクのドレスを着たミレイユは、ユーリィと共に部屋を出て廊下を歩いて行く。
「おはようございます父様、母様」
「ああ、おはようミレイユ」
「おはようミレイユ、ユーリィ」
『おはようございますっ、大公様、大公妃様』
先に食卓に座っていた五十代半ばの男女へとカーテシーをして挨拶するミレイユ。
上座に座るこの大公城の主であり、ミレイユの養父であるハーヴェント・アーグランド大公、そして大公妃であるメルヴィア・アーグランド。
二人は笑顔でミレイユとユーリィへと挨拶を返し、ミレイユはメルヴィアの隣の席に案内される。
「おや、私達が最後でしたか……おはようございます父上、母上。ミレイユとユーリィもおはよう」
「おはようございます皆様。お待たせしてすみません」
「おはようセルヴェン、アシェラ君」
「気にしなくていいわ、私達も少し前に来たところだから」
次に入室してきたのは、二十代前半の男女だ。ハーヴェント大公と同じくプラチナブロンドの髪の青年、大公子であるセルヴェン・アーグランド。
その傍らに立つ美しい藍色の髪をポニーテールに結い上げた美しい女性、大公子妃であるアシェラ・アーグランド。
息子夫婦の挨拶に大公は鷹揚に頷き、頭を下げる義娘に対し大公妃は気にしないでと優しく微笑む。
「おはようございます、セルヴェン兄様、アシェラ姉様」
『おはようございます! 大公子様、大公子妃様っ』
対面の席に案内された義兄夫婦へと挨拶するミレイユに対し、彼らも笑顔で応える。
大公家の全員が揃ったところで朝食が始まり、大公とセルヴェン親子が政治の事で語り合う中、ミレイユも食事を始め、ユーリィは彼女からパンや果実を小さく切って貰いそれを美味しそうに頬張っている。
「姉様、お腹が大きくなってきましたね」
「もう元気いっぱいよ。早く出たいってばかりにお腹をよく蹴るの」
「あと二ヶ月くらいだったかしら、無事に生まれる事を祈ってるわ」
「ありがとうございます、お義母様。この子ならきっと大丈夫です。今度こそお義母様に孫を抱いていただけるように頑張ります」
「無事に生まれてきてね。応援してるから」
朝食後に政務の為に大公親子が出ていった後、三人でお茶を飲んでいる時にお腹を摩るアシェラへと声をかけるミレイユ。現在大公妃は妊娠八ヶ月でそのお腹は大きく膨らんでいる。
元気でしょうがないんですと笑うアシェラに、ミレイユとメルヴィアは無事に生まれて欲しいと声をかける。
かつてアシェラは難産の果てに産んだ初子を生後数日で失うという痛ましい事件に遭ったが、恐れなど無い、今度は大丈夫ですと微笑んで応えた。
椅子を降りて彼女の側まで歩いて行ったミレイユは、彼女の大きなお腹に手を触れ、無事に生まれてきてねと祈りを捧げる。
大公妃達とも別れたミレイユは、城内を護衛の騎士やリンディと共に歩いて行く。
「これは公女殿下、おはようございます」
「おはようございます、ミレイユお嬢様」
「おはようユーリィ、クッキーを持っていくかい?」
大公家で働く文官達、騎士団に所属する騎士達、使用人達は彼女を見る度に笑顔で挨拶し、ミレイユもそれに返事をして歩き、使用人の一人からクッキーを一枚貰ったユーリィは収納魔法でそれを大事そうにしまいこむ。
「公女殿下、おはようございます」
「おはようダグ爺、いつもありがとうね」
「何を仰いますか、こんな素晴らしい温室を管理させて頂けるなんて、庭師冥利に尽きますよ」
広い大公城の敷地の一画に存在する大きな温室、魔法でいつも適温の環境に整えられているそこへと辿り着いたミレイユは、温室内で弟子達と共に作業していた年老いた庭師と挨拶を交わしながら咲き誇る花や温室内で育てられている薬草を見回す。
「みんな元気そうで良かった」
「それもこれも殿下の光魔法のお陰ですよ。殿下の魔法の力でこの子らは元気を貰ってるんです」
「親方の言うとおりですよ。俺こんなに元気に育つ花見た事無いです」
「ありがとう、そう言って貰えると嬉しいな」
ミレイユは庭師の言葉に微笑みながら、一輪の白い薔薇へとそっと手を触れる。その指先から淡い光が生まれ、花びらが輝きを増したかのように見えた。
この温室は花の好きなミレイユの為にも作られたもので、ここに育つ花や薬草はミレイユの使う光魔法の力で通常よりも早く育ち、不思議な効能を持つ薬草すら存在する程だ。
『ミレイユちゃんの光魔法は本当に綺麗ですー』
「ありがとう、ユーリィ」
小さな精霊の賛辞に、ミレイユは少し照れたように笑う。
彼女の持つ光魔法は傷を癒やし、植物を育み、邪なるものを浄化する力がある。その力と温室による管理で、ここはいつでも花が咲き誇っているのだ。
「この蜂達は大人しいですね、こちらから手を出さない限り絶対に何もしないです」
「ユーリィがちゃんと言い聞かせてくれたからね。ここで蜜を集めたいのなら約束を守ってと話してくれたの」
温室の外に出たミレイユ達が向かったのは、温室近くに設けられた花畑だ。そこを飛び交う蜜蜂達はせっせと花から蜜を集めている。それ見て凄いですと声を漏らすリンディにミレイユは約束してもらったからと微笑む。
この温室が出来上がり花々がミレイユの力で育ち始めてしばらくした頃、温室の入り口に分蜂中と思われる蜜蜂の群が現れたのだ。
だがこの温室はミレイユの力で育つようになった希少な花や薬草も育てていた為、許可のない者は入れないような結界が張られていた為、蜜蜂達は温室内に入れず入り口付近で右往左往していたのを見かねたユーリィが話しかけ、蜜蜂達と言葉を交わせる彼女は、彼らがここに入らせて欲しいと訴えているとミレイユに伝える。
その時ミレイユが閃いたのが、巣箱を作って養蜂を行う事だった、大公家の職人に頼んで巣箱や巣枠を作ってもらい、それに住んで蜜を幾らか分けてくれる事、人を攻撃しない事を条件に彼らが欲する良質な蜜の出る花の畑を作らせ、蜂達はそこや大公城敷地内の花々から蜜を集めている。
「公女様がご提案なさったこの巣箱と養蜂技術は素晴らしい物です。現在大公領の各地で同様の物を設置して蜜の採取を試行しています」
「蜂の巣を壊す今までのやり方よりずっと良い筈だよ。煙を起こせば蜜蜂達は大人しくなるから、その間に巣枠を取れば良いの」
巣箱の管理を担当する使用人が、ミレイユの提案した養蜂技術は大公領各地で実践され、確立されれば新しい産業として帝国中に広まると語る。
貴重な薬草の栽培と共に、大公家に収入をもたらすものだと文官達は口々に彼女の事を褒め称えている。
『ミレイユちゃん、今幸せですかぁ?』
「うん、幸せだよユーリィ。あの時、精霊王様のお願いを聞いて本当に良かった」
庭師達が仕事をする風景を楽しそうに見つめるミレイユへと問いかけるユーリィ。その言葉に花が咲くようなふわりとした微笑みで答える少女。
自分がこんな風に幸せになれるなんて、あの時までは夢にも思わなかった。
ミレイユの中に眠っていた光魔法、そして他人の心身を癒す力を目覚めさせてくれた精霊王の願いに応えた事によって彼女は幸せを掴む事が出来た。
彼女、ミレイユ・アーグランドは大公家の人々から愛される癒しの大公女なのだ。
だが彼女は初めから愛される存在ではなかった。前世でも家族に蔑ろにされ、転生しても家族達から虐げられた。これは虐げられ続けた転生者である少女が、秘めていた力を開花させ人々を助け、優しい家族と出会い、そして愛されていく物語である。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
短編では語りきれなかったミレイユの光魔法の力や、前世の知識を使って周囲を幸せにしていく様、ゲームの攻略対象であるキャラクター達との交流も描いていきます。
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