決着
リコリスは、初めて人を殺した感覚に全身を震わせる。命を奪うという行為は想像を絶するほど重いものだった。
こんなに憎い相手でも、胸が締め付けられるように苦しくなる。
「クロウさん…私…私…」
言葉にならない言葉が、リコリスの口から洩れる。
手の震えが止まらない。
そんなリコリスに、霊獣の姿のクロウが寄り添った。彼の温かい毛並みが、リコリスの震える身体をそっと包み込む。
「お前、本当に優しいんだな。俺も、お前を愛していて良かった。」
クロウの声は、いつもより低く、そして優しく響く。彼の声と温もりによって、リコリスは少しずつ落ち着きを取り戻していく。
しばらくすると、クロウが何かを感じ取ったように呟く。
「そろそろ…だな」
霊獣化が解け始めているのだ。
クロウの身体から、神々しい光が薄れていく。
「悲しむ事はない。お前が目になってくれるんだろ?」
クロウはリコリスを見つめ、優しく微笑みかける。
その言葉に、リコリスはハッとする。彼女は、クロウの目を治すと誓ったのだ。悲しんでいる暇はない。
「はい!必ず、目を治してみせます!」
リコリスは、クロウの言葉に応えるように、明るく答える。
「今度は上手に笑えてる。ありがとう、リコリス」
クロウは満足そうに目を閉じる。
光が消え、人の姿に戻った。 霊獣化が解け、人の姿に戻ったクロウの目は濁っていた。
リコリスの方に顔を向け、頭を撫でながらため息をついた。
「だから泣くなって…」
リコリスは、クロウに泣いていることを指摘され、驚いて顔を上げる。
「どうして分かるんですか…?」
彼女は、自分が泣いていることにさえ気づいていなかった。
「どうだっていいだろ?あー疲れた…帰るぞ。」
クロウはいつものようにぶっきらぼうな口調で言い、リコリスを促す。
リコリスは、クロウを支えながら、村へと帰還する。彼の身体はまだ少し熱を持っているが、その温かさが、リコリスの心を温める。
ふたりは互いを支え合いながら、ゆっくりと歩を進める。 これからどんな困難が待ち受けているか分からない。しかし、リコリスとクロウは、決して諦めない。彼らは、愛と希望を胸に、未来へと向かって歩み続ける。
ーーーーー
手配した馬車は、ゆっくりと田舎道を進んでいた。
揺れる車窓の外には、懐かしい風景が広がっている。なだらかな丘、穏やかに揺れる麦畑、遠くに見える小さな村の屋根。
「……帰ってきましたよ。」
リコリスがそう呟くと、隣に座るクロウは小さく息を吐いた。
「ああ。ようやくだな」
それだけの短い言葉だったが、そこには長い旅路のすべてが詰まっていた。命を賭した戦い、失ったもの、選び続けた決断。
それらをすべて抱えたまま、
それでも――帰ってきたのだ。
村の入口に馬車が止まると、先に気づいた子どもたちの声が響く。
「クロウ兄ちゃんだ!」
「リコリスさんもいる!」
次々に人が集まり、やがてカイルをはじめとする顔なじみの村人たちが二人を囲んだ。
「無事でよかった……噂は聞いていたぞ。大変だったな。」
その温かな声に、リコリスは胸がいっぱいになり、何度も頭を下げた。クロウは少し照れくさそうに、しかし誇らしげに立っている。
こうして、二人の新しい生活は始まった。
次回最終回です。
本日22時30分に投稿します。




