表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
焼け跡から続く光〜薬師の私を攫ったのは、人間嫌いの獣人でした。  作者: 不津倉 パン子
後編 未来を見つめて

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/58

笑顔

兵士など、魔獣化したクロウの敵ではなかった。

次々と兵士たちを薙ぎ倒す。


「素晴らしい!これほどの力を持つ化け物を躾けているなんて…やはり君の才能は本物だ!リコリス君、君は王国の研究所に戻るべきです。その化け物を薬でもっと強化すれば…君は神になれるかもしれない。」


男は狂気じみた笑みを浮かべる。


「ふざけないでください。クロウさんは、私の大切な人です!!」


「失礼。……大切なヒトモドキでしたね。」


研究者の男は、わざとらしく肩をすくめた。


「ですが……その大切なヒトとやらを、戦場に立たせるなんて。随分と酷な“愛”じゃありませんか?」


その言葉が、刃のようにリコリスの胸を刺した。


「違う……!」


彼女はクロウの前に立ち、叫ぶ。


「だから、これで終わりにするんです!クロウさんと、私は……私の愛する人と一緒に生きていくために!」


男は鼻で笑った。


「愛する人?……笑わせないでください。」


そして、楽しむように告げる。


「その大切なヒトとやらが、君の薬で視力を失いかけているにも関わらず、戦わせ続けるのが愛なのですか?」


世界が、止まった。


「……え?」


リコリスの声は、自分のものとは思えないほど遠かった。


「どういう……こと……?」


「そのままの意味ですよ」


男は淡々と、しかし残酷に言い切る。


「獣人化薬の副作用でしょうか、視神経の急速な劣化。その動き、左目はもう見えていないでしょうね。」


リコリスは、恐る恐るクロウを見る。


彼の視線は、確かに……

焦点を結んでいなかった。


「……クロウさん?」


震える声で、問いかける。


「……本当、なんですか……?」


クロウは、静かに頷いた。


「そうだ。」


あまりにも、穏やかな声だった。


「だから言ったろ。これで、旅は終わりにするって。」


「どうして……!」


リコリスは叫ぶ。


「どうして、言ってくれなかったんですか!苦しんでたのに……!これじゃあの時と一緒じゃないですか!!」


研究者が割って入る。


「簡単な話ですよ。彼にとって、あなたは“信用できない存在”だった」


次の瞬間。


「……すぐ殺してやるから黙ってろ。」


クロウの低い声が、空気を凍らせた。

彼は男の方に頭を向け、それからリコリスを見る。


獣人化が解け、人の姿に戻ったクロウ。その表情は――優しく、そしてどこか、諦めていた。


「なぁ、リコリス…」


静かに、問いかける。


「本当は、完全に見えなくなる前に旅を終えたかったんだがな。思ったより…進行が早かったみたいだ。」


言葉が、胸を抉る。

確かに、彼の左目はもう“世界”を映していない。


「目が見えない男との結婚なんて嫌だよな。悪い、あの話は忘れてくれ。」


リコリスの心は、激しく揺れた。


愛している。

それでも――不安が、ゼロではない自分がいる。


その事実が、何よりも彼女を苦しめた。


「……そんな訳、ないじゃないですか……!!」


彼女はクロウの腕を掴む。


「でも……どうして、もっと早く言ってくれなかったんですか……!」


クロウは、即答した。


「目なんて、安い代償だったから。」


彼の声は、揺るがない。


「俺は…大切なものを失う痛みを知ってる。……二度と、味わいたくない。」


リコリスの目から、涙が溢れ落ちる。


「……泣くな。」


クロウは、笑った。


「死ぬわけじゃない。だが…次、これを使えば右目も持たないだろうな。」


彼は、獣人化薬を取り出す。


「私は……また、失敗していたんですね……」


彼女は、震える声で告げる。


「最初の薬は臓器への負担が大きすぎて……だからそこを改良しました。なのに今度は……!」


クロウは、静かに頷いた。


「失敗なんてしてない。」


「……失敗しています……」


「してねぇよ!」


彼は、リコリスをまっすぐ見た。


「お前は失敗していない。だから、これ以上…お前に“罪”を背負わせないために、これで終わりだ。ちゃんと見てくれよ、俺は生きてる。あの時とは違うだろ。」


「でも……!」


リコリスは薬を奪おうとするが、敵わない。


「最後に見るお前の姿が、泣き顔なのは嫌だな。」


クロウは、優しく言う。


「……笑ってくれよ」


リコリスは、唇を噛み、涙を拭った。


「……こう、ですかね……」


壊れそうな、必死の笑顔。


「……やっぱり、お前可愛いな。」


クロウは、そっと目を閉じ――

獣人化薬を、飲み干した。


次の瞬間。


獣の咆哮が施設を揺らす。


目を開いたクロウの瞳は、

完全に、光を失っていた。


「待たせたな」


彼は、研究者へと向き直る。


「地獄へ送ってやる。見えなくても分かる…」


クロウは笑う。


「匂いと、音と……殺気でなぁ!」


彼は、獣だった。


愛を失わないために、

人であることを捨てた存在。


リコリスは、ただその背中を見つめる。


これは、勝利の戦いではない。

――取り返しのつかない選択の尻拭いだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ