慣れた旅
次の日の朝、これからのことを話し合う。
「四天王候補を潰す。過激派の居場所を突き止めるぞ。」
クロウの表情は真剣だ。
「グレイスからの情報だと、魔王軍に従わない魔族の村を襲っているらしい。」
「……なら、止めに行きましょう。」
リコリスは迷わず答えた。
こうして――
ふたりの旅は、再び動き出す。
小さな亜人の村を後にし、道標もない分かれ道を進んでいた。
「この先、風の匂いが違う。人が住んでるな。」
クロウがそう言えば、リコリスは地図を見直すこともなく頷いた。
「ええ。薬草も踏み荒らされていません。最近まで、きちんと手入れされていた村ですね。」
言葉少なに確認を終え、自然に歩調を合わせる。
互いに無理をせず、気を張りすぎず、それでいて油断もしない。長く旅を共にした者同士の距離感が自然に表れていた。
そのとき、遠くから悲鳴と金属音が聞こえる。
「……来たな。」
クロウが低く呟く。
丘を越えた先で、亜人の村が魔王軍に襲われていた。家屋に火が放たれ、武装した兵士たちが村人を追い立てている。
「助太刀します。いつもの通りで。」
「ああ。後ろは任せた」
言葉はそれだけで十分だった。
クロウは薬を口に含み、一歩踏み出す。そして瞬時に魔獣へと姿を変える。地を揺らす咆哮。鋭い爪と牙が、魔王軍の兵を次々となぎ倒していく。
戦いは、あまりにもあっさり終わった。
恐怖に縛られていた村に、静寂が戻る。
しかし次の瞬間、その静けさは別の緊張に変わった。
「……囲まれてるな。」
クロウが人の姿に戻る頃には、村の男たちが武器を手にふたりを取り囲んでいた。
「そんなに強い亜人のお前が、どうして人間なんかに飼われているんだ!!」
怒号が飛ぶ。
「なぁリコリス、俺はペットに見えるらしいな。」
クロウは乾いた自虐笑いを浮かべる。
その横で、リコリスは小さく微笑んだ。
「ええ。どこに行っても、私たちは異質な存在として見られるみたいですね。」
リコリスは一歩前に出る。
武器も構えず、ただ真っ直ぐに彼らを見据えて。
「私たちは、魔王軍と戦うために旅をしています。クロウさんは私を守り、私はクロウさんを助ける。そのために、一緒にいるのです!」
彼女は語った。
出会いのこと、魔王軍との戦い、クロウが魔獣へと変貌した理由。一切を飾らず、隠さずに。
男たちの表情から、次第に剣呑さが消えていく。
「……信じられない話だが。」
リーダー格の男が、重い口を開いた。
「お前たちの目を見ていると、嘘を言っているようには思えない。……わかった。信じよう」
村へ案内される途中、村人たちはまだ警戒を解いてはいなかった。それでも、恐怖よりも安堵が勝り始めているのが分かる。
長老は、ふたりを丁重に迎え入れた。
「私たちは、魔王軍に苦しめられております。いつ襲われるか分からぬ日々で……」
リコリスは静かに頷く。
「私たちにできることがあれば。お役に立ちたいです。私は薬を作れます。」
長老の目が見開かれる。
「薬…ですか!?実は……病に伏している者が多くおりまして…」
「それは大変です!すぐに取りかかりますね!」
その返事もまた、迷いがなかった。
リコリスは村の周囲で薬草を探し、クロウはその護衛につく。危険を察知すれば即座に立ち位置を変え、声を掛け合わずとも意図が伝わる。
その姿を見て、村人たちは少しずつ心を開いていった。
ーーー
夜。
焚き火のそばで、リコリスは集めた薬草を調合する。
「クロウさん、本当にありがとうございます。あなたがいてくれるから、安心して薬が作れます。」
「俺は、お前が力を使えるようにするためにいる。この旅を始めた…最初の時からそうだったろ?」
クロウは静かに、しかし迷いなく言った。
「ここが俺の居場所だ。」
ふたりは言葉少なに視線を交わす。信頼は、すでに確認する必要のないものになっていた。
その夜、村には久しぶりに安らかな灯りがともる。そして二人は、次なる戦いへ向け、静かに歩みを進めていく。




