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焼け跡から続く光〜薬師の私を攫ったのは、人間嫌いの獣人でした。  作者: 不津倉 パン子
後編 未来を見つめて

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上書き

村に戻った途端、険しかったクロウの表情は、まるで何事もなかったかのように和らいだ。


張り詰めていた空気が、ふっとほどける。


「よく頑張ったな、リコリス。迎えに行くのが遅くなって悪かった。」


深く息を吐き、彼は静かに頭を下げる。その仕草は、戦場に立つ者ではなくただ彼女を想う一人の男のものだった。


「……」


言葉が出てこない。


胸の奥に溜め込んでいた不安や恐怖が、クロウの腕に触れる瞬間、一気に溶けていく。リコリスは震えながら、やっと心を預けられた。


膝が震え、思わずクロウの胸元にすがりついた。


「ごめんなさい……!私、勝手なことをして……」


涙が止まらない。


「お怪我はありませんでしたか?ひどい目にあわされていませんか?……本当に、ごめんなさい……」


安堵と後悔が入り混じり、嗚咽まじりの声になる。


「でも……どうして、迎えに来られたんですか?」


顔を上げ、縋るように見つめる。


「お前が連れ去られたあの時、魔王軍の匂いがした。」


クロウは短くそう告げた。


「すぐにリオンたちの所へ行った。魔王軍に接触する方法があるなら何でも良かった。魔王軍四天王ロゼは、マーリンの師匠。そしてグレイスはアイゼンの兄貴だ。」


クロウは淡々と語っているが、その裏にあった焦燥は隠しきれていなかった。


彼は言葉を切り、リコリスを強く抱き寄せる。


「……そんなこと、どうだっていい……」


声が、わずかに震えている。


「お前は、俺にとって……かけがえのない存在だ。お前を何があっても守ると決めていたのに……」


抱きしめるクロウの腕に力がこもる。

痛いほど、必死なほど……


「お前がいなくなったら、俺は……もう誰も失いたくないのに…よりにもよって一番大切なお前が……怖かった……俺は、俺は……」


その先を言わせまいと、リコリスはクロウの唇を奪う。クロウがずっと苦しんでいたのが痛いほど伝わっていた。


リコリスはクロウの頬を撫でて微笑む。


「ありがとうございます、クロウさん。もう、二度と…どこにも行きません。だから…泣かないでください。」


「っ!泣いてねぇよ!!……だが少し疲れた。」


クロウは慌ててそっぽを向いた。頭上の獣耳がピクピクと跳ね、何かを誤魔化している。


「ふふ、そうですか?たまには泣いてもいいんですよ?」


「うるせぇ。いっつも泣いてるお前に言われたくねぇよ。」


その夜、久しぶりに二人は同じベッドに身を横たえた。触れ合う指先、重なる体温。確かめ合うような沈黙が、部屋を満たす。


やがて、その温もりは静かな熱へと変わっていった。


「リコリス……キスしてもいいか?」


いつもより、ずっと優しい声。


「はい。……キス、したいです。」


短く答えると、彼女は目を閉じた。


世界から切り離されたような、穏やかな夜だった。

互いの存在だけを確かめながら、二人はゆっくりと、同じ安らぎの底へ沈んでいった。


しばらく見つめ合ったあと、クロウが口を開く。


「嫌だったら答えなくていい。お前、グレイスに何をされたんだ?」 


冷たいクロウの声。しかし彼の顔つきは不思議なほど優しかった。


「……上書きする。お前がグレイスにされたこと、俺がそのまま同じ事をする。俺の知らないお前をアイツが知ってんのが許せねぇ……。」


リコリスは胸がざわついて仕方ないかった。


こんなクロウさん見たことない……


「なぁ…お前、何をされた?」


貪り食らうようなキス。

その熱が理性を溶かしていきそうだった。


「あー…やべぇ……くそっ…愛してる。リコリス……」


クロウが目を擦っている。リコリスが大切だからこそ嫉妬し、大切だからこそ強く踏み込めない。その苦悩する姿はいつものクロウとはまるで別人だった。


「クロウさん…泣いてるんですか?」


「んなわけないだろ、お前じゃねぇんだから!………と言いたいが、そうかもな。」


クロウがリコリスの胸元に顔を埋める。


「……少し、このままでいさせてくれ。」


クロウの吐息が心臓にまで染みわたるように熱い。

リコリスはクロウの頭を優しく撫でた。


そして……


ふたりは互いの温もりを確かめ合いながら、ゆっくりと心を重ねた。あの日のすれ違いを、言葉よりも触れ合いで上書きするように。


優しく…そして深く……

あの日のすれ違いを上書きするように。


月は、ふたりを見守っている。

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