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焼け跡から続く光〜薬師の私を攫ったのは、人間嫌いの獣人でした。  作者: 不津倉 パン子
後編 未来を見つめて

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会議

グレイスが去り部屋にひとり残されたリコリス。


身体は火照り、意識はまだ定まらない。壊れないように、崩れ落ちないように、リコリスは必死に心の中でクロウの名を呼び続けていた。


戻ってきたグレイスはまるで大切な人形を扱うかのように、彼女の髪を撫で、服を整えさせる。


「君のことは、ロゼと闇騎士くんから聞いている。安心して。私も一応“穏健派”なんだよ。」


その穏やかな声に、リコリスは言葉の意味を理解できず、ただ震える視線を向ける。


「さぁ、行こっか。」


慣れた手つきでリコリスをお姫様抱っこし、部屋を出ようとするグレイス。リコリスは恥ずかしさから足をバタつかせ、自分の足で歩き始めた。


豪華な扉の部屋に通される。


そこにいたのは、アゼリアと白髪の男性ロゼ。

そして、少し遅れて――レインと…


なんとクロウが入ってきた。


「……クロウ、さん……?」


声に出した瞬間、胸が締め付けられた。


目の前にいるクロウは、確かに彼の姿をしているのに、表情はひどく冷たく、感情を感じさせない。


目が――どこか定まっていない。


感情を押し殺している、というより、

押し殺す余裕すらないように見えた。


「……作戦会議、するんだろ」


声は低く、短い。

言葉の端が、わずかに掠れていた。


淡々としたその口調に、リコリスは言葉を失う。


ロゼが場を仕切るように口を開いた。


「魔王軍四天王の席が一つ空いていてね。今起きているのは、その座を巡る内紛だよ。その“報酬”がエルフ族の姫、ナナリー姫との結婚、というわけだね。」


リコリスは、背筋が凍るのを感じた。四天王の座を巡る争いが、エルフ族と、ナナリー姫の未来を左右する。


「僕とアゼリアはすでに四天王。だから穏健派から、もう一人出したい。」


ロゼの視線が、グレイスとレインに向けられる。


「姫様は可愛いし、私のコレクションに……」


グレイスが言いかけた瞬間、リコリスは思わず声を張り上げていた。


「だめです!!」


一斉に視線が集まる。

アゼリアが、くすりと笑った。


「ふふ、正直な子ね。」


異様なほど和やかな空気の中で会議は進む。敵であるはずの魔王軍幹部たちが、まるで旧知の仲のように言葉を交わすその光景に、リコリスは強い違和感を覚える。


笑い声すら混じる会話。

語られているのは、権力と婚姻と命の話なのに。


――ここにいるのは、敵のはずなのに。

リコリスだけが、場違いな寒気を覚えていた。


だが、クロウは壁に手をついたまま、動かず冷たい目線のままだった。


指先に、わずかな震えが走る。


それを隠すように、彼は視線を伏せた。


「魔王軍四天王か。それは…別に俺でもいいんだろ?」


「えぇ、もちろん。獣人とエルフの子供、きっと強い子になるわ。私も今度作ってみようかしら?また精液くれない?」


「……お前ら、ここで殺してやろうか?」


「冗談だ。俺には心に決めた女がいるんでな。」


クロウの言葉にアゼリアが同調し、それにレインが嫌悪感と殺意をしめしている。そしてクロウの『心に決めた女がいる』という言葉…


その言葉に、リコリスの胸が強く跳ねた。


――冷たいのに。

――距離があるのに。


それでも、その一言だけで十分だった。


やがて会議は終わり、クロウが部屋を出る。

反射的にリコリスは彼を追った。


ロゼから渡された転送装置が淡く光り、ふたりの姿は村へと移される。


やっと帰れる――はずなのに。


クロウの背中は、どこか遠い。

その理由を、リコリスはまだ知らない。

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