悪夢再び
快楽に塗れた夜が明け、リコリスは最悪の気分で目を覚ます。身体は鉛のように重く、心は泥のように澱んでいる。
「昨日は可愛かったよ。」
グレイスは優しくリコリスの頭を撫でる。その言葉とは裏腹に、彼の瞳には冷酷な光が宿っていた。
「君に作ってもらいたいものがあるんだ。媚薬だよ。男用と女用を二種類…それが出来たら君を解放するよ。悪くない話だよね。というか、君は断れない。君は僕の所有物だからね。」
グレイスの穏やかな口調は、リコリスにとって恐怖そのものだった。
「……分かりました」
彼女は、条件を飲むしかなかった。
グレイスはリコリスに専用の部屋を用意する。そこは一見、研究室のように整えられているが、実際は彼女を監視するための牢獄だった。
リコリスは媚薬の調合に取りかかる。
その手を動かしながら、過去の記憶が蘇る。
前にも、こんなことがあった。
アゼリアに捕らわれ、獣人の薬を作り、その薬でクロウを死なせてしまった。
あれほど後悔したのに。
また、同じ場所に立っている。
旅をして、クロウと心を通わせて、少しは強くなれたと思っていた。それなのに…結局、何も変わっていなかった。
……このまま、終わるわけにはいかない
リコリスは考える。
この状況から、一矢報いる方法はないか。
そして、ひとつの考えに辿り着いた。
グレイスは、完成した媚薬を自分に使う可能性が高い。その瞬間こそ、反撃の機会になるかもしれない。
リコリスは、媚薬に密かに細工を施す。
男用の媚薬は強い効果が出るように配合し、さらに血流を促進し、神経を麻痺させる毒を混ぜた。
女用の媚薬は効果を弱めに調合し、万が一の事態に備える。
クロウへの罪悪感。
そして、生き延びたいという切実な願い。
震える手で薬草をすり潰しながら、リコリスは決意を固めていく。
数日後、二種類の媚薬が完成した。
瓶には、太陽と月を象ったラベルが貼られている。
「よく出来たね。」
グレイスは満足そうに微笑む。その笑顔に、リコリスの背筋が凍りついた。
「さっそく、試してみようか」
太陽のラベルが貼られた男用の媚薬を手に取るグレイス。リコリスの心臓が、激しく脈打つ。
――今だ。
「……と、その前に」
グレイスはニヤリと笑い、彼女を操って月のラベルが貼られた媚薬を取らせる。
「自分で飲みます。」
弱いとはいえ催淫効果はある。彼女はきっと、薬が効いた状態でグレイスに犯されるだろう。でも、絶対に耐えてみせる。覚悟を決め、リコリスは自らの意思で媚薬を飲み干す。
グレイスは満足げに頷いた。
「じゃあ、効果を確かめようか。」
その後の出来事は、快楽と恐怖が入り混じり、リコリスの意識を曇らせていく。
「じゃあ、そろそろ……こっちも使う?」
グレイスは太陽のラベルの瓶を手に取り、リコリスの口元へ近づけた。
「違います……それは、あなたが……!」
「毒が入ってるんだよね。忘れた?君は私の所有物だから、思考だって全部分かっちゃうんだよ。」
その言葉と同時に、抵抗は無意味だった。
毒と薬の効果が、容赦なく身体を蝕む。
視界が揺れ、思考が途切れていく。
「止めて……死んじゃう……」
叫びは、届かない。
「悪い子にはお仕置きが必要だよね。君は“私の弟”の友達みたいだから、ちゃんと反省できれば仲間になってあげるよ。」
グレイスが覆いかぶさる。
冷たい声が、意識の奥に沈んでいく。
やがて………
すべてが終わり、グレイスは満足したように立ち上がった。
「ちゃんと、反省できたかな?」
そう言い残し、彼は部屋を去っていった。
リコリスは、身動き一つできないまま、天井を見つめる。
快楽と毒で麻痺した身体。
絶望と後悔に沈む心。
……クロウ……さん
名前を呼ぶことすら、もう声にならなかった。




