表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
焼け跡から続く光〜薬師の私を攫ったのは、人間嫌いの獣人でした。  作者: 不津倉 パン子
中編 進んだ先は過去

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/58

取り戻したぬくもり

第二章最後の話です。

過去に飛ばされたリコリスの旅も一区切り。

長く困難な道のりの中で、彼女は大切な人と向き合い、未来を切り拓いていきます。

宿に戻った一行は、夕食を囲みながらそれぞれが得た情報を整理していた。


リオンとリコリスが過去へ渡ったことで、クロウが死ぬ運命は確かに回避された。それは何よりも大きな成果だった。


しかし――過去を変えた代償が、どこまで世界に影響しているのかは誰にも分からない。


「……そうだ。」


ふと、リオンが箸を止める。


「レインは……どうなったんだろう?」


その名に、空気がわずかに張り詰めた。


「レイン?」


マーリンが静かに反応する。


「勇者リラと旅をしていた剣士のことですか?」


「いいえ」


リコリスが首を振る。


「レインさんが旅をしていたのは、勇者リリーです。」


記憶は確かだった。過去で出会ったレインは、勇者リリーの事を語り、彼女の遺志を残そうとしていた。


だが、マーリンは穏やかに首を横に振る。


「間違っていませんよ。レインは、勇者リリーと旅をし、彼女の死を王国へ伝えました。その後、次の勇者であるリラと共に剣をとったのです。」


沈黙。


リオンとリコリスは、言葉を失った。


呪いを受け、余命わずかな身でありながら。


それでも彼は…次の勇者と剣を取り、旅に出たという。


「……そんな……」


リオンの胸に、強い衝撃が走る。


「じゃあ……今、レインは?」


「亡くなりました。」


マーリンは、はっきりと告げた。


「勇者リラと共に、魔王軍と戦いその命を落としたそうです。その場に以前お会いしたエルフの姫様、ナナリー様がいました。彼女が恋した剣士…おそらく…それが、レインです。」


あまりにも静かな宣告だった。


リオンは俯き、拳を握り締める。リコリスの脳裏には、あの時のレインの微笑みが浮かんでいた。


傷つき、世界に絶望しながらも。

それでも彼は、平和を諦めなかった。


尊敬と、哀しみと、どうしようもない無力感が胸を満たす。


宿の中は、しばらく静寂に包まれていた。


誰もが、ひとつの命の終わりを、それぞれの形で悼んでいた。


ーーー


その夜。


リコリスの部屋を、控えめなノックの音が叩いた。


「……入っていいか?」


扉の向こうに立っていたのは、クロウだった。


ランプの淡い光が、部屋を柔らかく照らす。

二人は言葉を交わすことなく、ただ向かい合った。


生きている。

それだけで、すべてが報われる気がした。


「リコリス…」


クロウは、懐から小さな包みを取り出す。


「これがなかったら、俺はここにいなかった。」


それは、過去のリコリスが必死に調合し、残した薬の瓶と小さな手紙だった。色褪せた包みは、クロウにとって“生き延びた証”そのものだった。


「あの時は……頭に血が上ってた。」


クロウは視線を逸らしながら言う。


「お前たちに、酷いことを言った。悪かった。」


リコリスは、首を振った。


「私こそ……ごめんなさい。」


あの時のクロウは、すべてを失い、孤独だった。追い詰めた一因が自分にあったことを、彼女は忘れていない。


しばらくの沈黙の後。


「……でしたら」


リコリスは、そっと手を差し出した。


「仲直り、してくれますか?」


わずかに震える指先。

クロウは何も言わず、その手を握った。


温かい。

確かに、ここにいる。


ふたりは見つめ合い、思わず笑った。

子供のように、不器用で、素直な笑顔だった。


「……ずっと黙ってた。」


クロウが、低く告げる。


「過去の俺は未来から来たお前に救われた。…あの時からずっと、お前のことが好きだった。」


クロウはリコリスの目をしっかりと見つめる。その目は今までの彼の鋭い眼光とは似ても似つかない程優しく、温かく、今まで見たことないような穏やかな眼差しだった。


「あの日、焼けた研究所でお前に会った時…お前は俺を覚えていなかっただろ?だから…ずっと、黙ってた。お前を混乱させない為にな。」


リコリスは、言葉を失い、ただクロウを見つめる。


「……顔をよく見せてくれないか?」


クロウの大きな手がリコリスの頬を撫でる。

ふたりの距離が、静かに縮まる。


「リコリス…愛してる。」


唇が触れ、確かめ合うように、そっと重なる。

それ以上の言葉は、必要なかった。


この世界で。

この時間で。


――クロウは、生きている。


過去への旅は、

救われた未来と、

温かな夜の中で、

静かに幕を閉じる。


次に待つものなんて、

今は考えなくていい。


今はただ、

お互いの存在を確かめあい、

愛に全てを委ねたい。

第二章、最後まで読んでくださりありがとうございます。

リコリスは大切な人を守り、

未来を変えることに成功しましたが、

物語はまだ続きます。


次章では二人の新たな旅と試練が待っていますので、ぜひブックマークや感想で応援いただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ