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焼け跡から続く光〜薬師の私を攫ったのは、人間嫌いの獣人でした。  作者: 不津倉 パン子
中編 進んだ先は過去

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37/58

人間

目を覚ましたリコリスは、ゆっくりと体を起こした。


見知らぬ天井。

軋む梁と、干し草と古い木が混じった匂い。


身体には、誰かが丁寧に掛けてくれたらしい柔らかな毛布があった。


「……ここは……?」


かすれた声に応えるように、すぐそばから安堵の息が漏れた。


「よかった……!気が付いたんだね。」


顔を覗き込んできたのは、リオンだった。目の下にはうっすらと隈があり、ずっと付き添っていたことが分かる。


「神殿の近くの村だよ。君が突然倒れたから、ここまで運んだんだ。」


「……ごめんなさい。」


リコリスが言うと、リオンは慌てて首を振った。


「謝ることじゃないよ。無事でいてくれた、それだけでいい。」


少し離れた壁際では、クロウが腕を組んで立っていた。険しい表情のまま、視線だけをこちらに向けている。


「……心配させるような真似しやがって。」


ぶっきらぼうな言葉。


けれど、その声色には隠しきれない安堵が混じっていた。


リコリスはすぐにベッドから起き上がろうとする。


「神殿に戻りましょう!時間が……」


「待って」


リオンが静かに制した。


「神殿は危険すぎる。あの時、なぜ次元の穴が開いたのかも分からない。しばらく、この村で情報を集めよう。」


焦る気持ちを抑え、リコリスは小さく頷いた。


「……分かりました。」


クロウは何も言わなかった。

ただ、リコリスのそばを離れようともしなかった。


ーーー

村は、一見すると平穏だった。


畑を耕す人々に、子どもたちの笑い声。

パンを焼く匂いや、食事の支度をする香り。

活気で溢れる村に、穏やかな人たち。


けれど。


リコリスは、どこか胸の奥がざわつくのを感じた。


その夜、リコリスとリオンは、村に伝わる古文書を調べていた。だが、記された言葉は暗号のようで、ほとんど解読できない。


「まるで……わざと分からないようにしてるみたいだ。」


リオンが呟いた、その時。


外が、妙に騒がしくなった。


怒声。

嘲笑。

――そして、歓声。


嫌な胸騒ぎに導かれるように、三人は外へ出た。


村人たちが、広場に集まっている。


「勇者リリーのパーティーが全滅したんだとさ!」

「剣士だけが生き残ったらしい!」


リコリスの息が止まる。


「もしかして……レインさんの事……?」


村人たちのただならぬ形相に嫌な予感がした。


「生き残ったくせに、のこのこ帰ってきやがって!」

「仲間を見捨てた臆病者だ!」

「勇者様じゃなく、奴が死ねば良かったんだ!」


人々の顔は、怒り、憎しみ……

そして、

安全な場所から他人を裁く快楽に染まっていた。


「裏切り者は処刑だ!」

「勇者様を魔王に売ったに決まってる!」

「泣き叫ぶ姿を見せしめにしろ!」


その言葉の一つ一つが、刃のように突き刺さる。


「そんな……!」


リオンの声が震える。


「仲間を全員失って、生き残った人が……どうして……!」


誰一人、事実を確かめようとしない。

誰一人、彼の言葉を聞こうとしない。


生き残ったという理由だけで。

弱っているという理由だけで。


人々は、彼を“悪”に仕立て上げていた。


その光景を、クロウは無言で見つめていた。


拳を握りしめることもない。

怒鳴ることもない。


ただ、氷のように冷えた瞳で……


その沈黙が、何よりも重かった。


「……助けに行きたい。」


リオンが絞り出すように言う。

葛藤し、震える拳を握りしめて……


「分かってる。元の世界に戻るのが最優先だ。でも……」


リコリスは、まっすぐに頷いた。


「私も行きます。」


その瞳に、迷いはなかった。


「目の前で理不尽に殺されようとしている人を、見捨てることはできません!」


リオンは、はっと息を呑み

――そして、力強く頷いた。


「……そうだね。仲間一人救えなくて、勇者なんて名乗れないよ!」


リオンはクロウを見る。


「行こう。レインを助けたい。」


「……好きにしろ。」


クロウは短く答えた。


だが、その背中は、誰よりも早く歩き出していた。


――人間の残酷さを、

誰よりも知っている者として。


リコリスは、その背を見つめながら思った。


クロウが、人間を憎む理由……


それは、過去の傷だけではない。

今も変わらず繰り返されている現実そのものなのだと。



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