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焼け跡から続く光〜薬師の私を攫ったのは、人間嫌いの獣人でした。  作者: 不津倉 パン子
中編 進んだ先は過去

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愛してはいけない人

一同は、再び野営を整え直した。


焚き火が静かに燃え、夜の闇を小さく押し返している。


リオンは火を見つめたまま、ほとんど言葉を発さない。リコリスが差し出した温かい飲み物を、ゆっくりと、噛みしめるように口にしていた。


レインは少し離れた場所に座り、居心地の悪そうなまま、三人の輪に踏み込めずにいた。自分が加わったことで、場の空気が重くなっているのを自覚しているのだろう。


沈黙を破ったのは、クロウだった。


「レイン。お前、王国に行くつもりなんだよな?」


低く、刺すような声。


「だったら、俺たちも同行する。断るなら殺す。」


クロウの視線は鋭く、敵意を隠そうともしない。


「勇者リリーの仲間なんぞ信用できねぇ。あいつらは“人外狩り”に力を入れていた。」


焚き火が、ぱちりと爆ぜた。


リコリスは、はっとしてクロウを見る。


その言葉が、ただの憎しみではなく、血と喪失の記憶から来ていることを、彼女は知っている。


レインは反論しなかった。

視線を落とし、ゆっくりと頷く。


「……その通りだ。」


声には、逃げも言い訳もなかった。


「リリーたちのやったことは、許されるものじゃない。俺も止められなかった……それを、今もずっと後悔している。」


クロウの眉が、わずかに動く。


否定しない。

正当化もしない。


それだけで、クロウの中の警戒がほんの僅かに緩んだのが分かった。


「……ふん。」


クロウは鼻を鳴らし、視線を外す。


「リコリス。お前はどう思う?」


その声は、先ほどよりも少しだけ柔らかい。


リコリスは一瞬、言葉を探した。


未来を知っている自分が…

どこまで口を出していいのだろうか?


それでも、彼女は答えた。

静かに、しかしはっきりと。


「勇者たちのやったことは、許されない。でも……レインさんは後悔してる。向き合おうとしてる。」


レインを見る。


「だから私は……一緒に旅をしてもいいと思う。でも、レインさんを監視するためじゃなく、勇者の想いを未来に繋ぐために。」


クロウは、じっと彼女を見つめた後小さく頷いた。


「……分かった。」


それだけだった。


だが、次に向けられた視線はレインではなく、リコリスだった。


――信じる理由が、彼女だから。


その事実に、リコリスの胸がきゅっと締めつけられる。


リオンもまた、静かに口を開いた。


「僕も……レインと一緒に行きたい。」


声はまだ弱いが、意志ははっきりしている。


「魔王を倒して、過去の過ちを正すために…レイン、力を貸してくれる?」


リオンはレインに手を差し伸べ、レインもそれに応えた。


夜明け前、四人は王国を目指して歩き始める。


リオンが先頭を行き、クロウは常にリコリスの半歩前。レインは最後尾で、全体を見渡している。


道中、リコリスは薬草を見つけては足を止める。クロウはその度に、何も言わずに立ち止まり周囲を警戒する。


その背中が、無言で「離れるな」と言っているようだった。


クロウさん……


リコリスは、そんなクロウの背中を見つめる。


まだ若くて、荒くて、未来のクロウさんより……

ずっと不器用。


それなのに。


どうして……こんなに……


未来の彼を、愛していた。

失って、失って、取り戻せないと後悔して。


なのに。


――目の前のこのクロウに、

また、心を奪われている。


戦いの中で、彼が無茶をするたびに、胸が冷たくなる。怪我をすれば、息が詰まる。


……だめ


この人は、まだ……

私の知っているクロウさんじゃない


それでも、想いは止まらない。


夕暮れ、村に辿り着いた一行は、宿を借りた。


夜。


リコリスは、クロウと二人で、村外れの森を歩く。

月明かりが、木々の隙間から差し込む。


「……クロウさん」


リコリスは、彼の腕にそっと寄り添った。


「あなたと一緒に旅ができて……本当に、嬉しいです。」


クロウは一瞬、戸惑ったように視線を彷徨わせる。


「俺は……よく分からねぇ」


正直な声。


「でも、お前がいると……まだ、生きててもいい気がする。」


胸が、熱くなる。


未来のクロウは、こんな弱さを見せなかった。

強くて、荒くて、全部を背負っていた。


でも――今のクロウは、違う。


壊れそうで、孤独で、

だからこそ、愛おしい。


「未来から来たお前にこんな事、言ってはいけないと分かっているが……」


クロウが、リコリスの頬に手を当てる。


「お前が好きだ。一度だけ……キスしていいか?」


理性が、音を立てて崩れる。


だめ……これは……


分かっている。

これは、未来のクロウへの裏切りだ。


それでも――


「……一度じゃ、足りません。」


自分の声が、甘く震えるのが分かった。


「……いっぱい、して?」


クロウの目が見開かれ、そして――

次の瞬間、唇が重なった。


確かめ合うように、何度も。


月の光が、二人を照らす。


――これは、愛じゃない。

逃げだ。


分かっているのに。


リコリスは、もう戻れないほど、

過去のクロウに、深く、深く、沈んでいった。


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