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焼け跡から続く光〜薬師の私を攫ったのは、人間嫌いの獣人でした。  作者: 不津倉 パン子
中編 進んだ先は過去

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新しい戦い

リコリスが感じたのは、冷たい土の感触だった。


「……リコリス。大丈夫?」


低く、しかし確かな声。


ゆっくりと瞼を開くと、そこにはリオンの顔があった。煤と土で汚れているリオンだったが、


それでも、無事だと分かるだけで胸が詰まった。


「……大丈夫です。リオンさん……皆さんは?」


身を起こそうとすると、リオンは静かに彼女を支え、抱きかかえたまま首を横に振った。


「ここにいるのは、僕と君だけだよ。他の皆は……どこなのか分からない。」


その言葉に、リコリスは周囲を見渡す。


見覚えのない森。

異様なほど高く伸びた木々。

空は厚い雲に覆われ、昼か夜かも分からない。


「まさか…時渡り、したのではないでしょうか?」


自分の声が、ひどく遠く聞こえた。


冗談でも、希望でもない。ただ、ひとつの推測を言葉にしただけなのに、胸がざわつく。


「確かに……可能性は高いかも。」


リオンも、否定しなかった。

その沈黙が、答えだった。


――過去に戻った。

それも、ただの過去ではない。


遠くから、炎が揺らめくのが見えた。


赤く、黒く、空を焦がす光。

遅れて、悲鳴のような音が風に乗って届く。


「……何か、起きています!」


「そうだね、行こう!」


リオンは迷わず剣を抜き、リコリスを庇うように前に出る。その背中を見ながら、リコリスは自分の胸に手を当てた。


――今の私に出来ることはなんだろう?


薬を作る能力は戦いには使えないし、精霊の力を制御できているとは到底言えない。


それでも、今は縋るしかなかった。


森を抜けるにつれ、焦げた匂いが濃くなる。

叫び声は次第に意味を持った言葉に変わっていく。


そして、開けた場所に出た瞬間――


ふたりは、息を失った。


村が、燃えている……


家々は崩れ、炎に包まれ、

逃げ惑う人々が、次々と地に倒れていく。


鎧を着た兵士たちが、剣を振るい、槍を突き立て、

獣の耳と尾を持つ者たちを、躊躇なく斬り捨てていた。


「こんなこと……許せない!」


リオンの声は、怒りで震えていた。


「リコリス、援護を!」


そう叫ぶと同時に、リオンは群れの中へと飛び込んだ。


リコリスは一瞬だけ、立ち尽くした。

視界の端に、倒れ伏す獣人の子どもが映る。


クロウさんの、幼い頃も…

こんな光景だったのだろうか……


「……っ」


唇を噛みしめ、精霊の力を解放する。


光が、集まる。


だがそれは、祝福の輝きではない。

悲しみと怒りに歪んだ、鋭い光だった。


「リオンさん!精霊の力を使ってください!!」


奔流となった光が、リオンの握る聖剣へと宿る。

リオンの振るう剣により、鎧の兵士たちは次々と弾かれ、倒れていく。


リオンの剣と、リコリスの光が噛み合い、

一時的に戦況は押し返される。


――けれど


足元に転がる遺体が、あまりにも多すぎた。


「……どうして……」


呟きが、零れる。


倒れているのは、獣人ばかりだ。

老いた者も、若い者も、逃げ遅れた子どもも。


「生き残りは……クロウさんと、ネロリちゃんだけだったはず……」


声が震える。


もし、ここが過去なら…この村は――


リオンが、歯を食いしばる。


「僕たちは、あの日に来てしまったんだ。」


剣を構え直し、敵を睨み据える。


「獣人の村が、“人外狩り”で滅ぼされた…今日がその日だ。」


リコリスの視界が、歪んだ。


――逃げられない。

ここは、クロウから語られた悲劇の中心だ。


「敵をよく見て、リコリス!」


リオンの声が、低く響く。


「……あれは、人間だ。王国の兵士たちだよ。」


改めて見ると、確かにそうだった。紋章、装備、陣形。正義を掲げ、命を奪う側の人間の姿だった。


「……そんな……」


喉が、ひりつく。


クロウが、人間を嫌っていた理由が、今になって、骨の奥まで理解できてしまった。


「クロウさんや……ネロリちゃんは……」


わずかな希望に、縋るように呟く。


「僕達の時代では生きていた。だから、今も生きている可能性は高い!」


リオンは即答した。


「でも……」


一瞬だけ、視線を伏せる。


「……つまり、この村は……救えない」


その言葉は、刃のように冷たかった。


未来を知っているからこそ、

抗えない運命がある。


「……それでも」


リコリスは、拳を握りしめる。


「それでも、今、ここで死ぬ人を……一人でも減らしたい」


光が、再び彼女の周囲に集まる。


それはもう、誰かを取り戻すための力ではない。失われ続ける命の中で、それでも戦うと決めた者の光だった。


「行こう、リオンさん!」


震える声で、しかし確かに言う。


「これは……私の、新しい戦いです!」


燃え盛る村の中でリコリスは思い知らされる。


この世界がどれほど残酷なのかを。


そしてその一歩は、

もう、引き返せない場所へと踏み出していた。

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