時の神殿
神殿に着くと、リオンたちが神殿の前で話しているのが見えた。その姿を目にした瞬間、リコリスの胸が、じんわりと熱を帯びる。
「リオンさん!」
彼女は声をかける。
リオンたちは驚いたように振り返る。
彼らの顔に、驚きのあと、安堵と喜びが広がった。
「リコリス!無事だったんだね。」
リオンは駆け寄りリコリスの手を握る。
その手は、温かく、力強い。
それが今は、痛いほどに分かった。
「リオンさんたちこそ、お元気そうで良かったです。時の神殿に何かご用ですか?」
リコリスは尋ねる。リオンは、少し困ったような表情で答えた。
「実は…この先のことで、少し迷っていて。時の神殿で、啓示を受けようと思って来たんだ。」
リコリスは、リオンたちの悩みに共感する。
クロウの死後、彼らもまた、それぞれの道を模索しているのだろう。
リコリスはリオンたちに、時の神殿にまつわる古い伝承を語り始める。
「この神殿には、時を司る神が祀られていると言われています。祈りが届けば、時を渡れる……そんな伝承が残っています。ですが、実際にそれを成し遂げたという確かな記録はありません。」
彼女の声は微かに震えている。
――もし、この伝承が本当で。
もし、過去に戻れるのだとしたら。
クロウさんに、もう一度会いたい。
その切実な願いが、彼女の心を締め付ける。涙が溢れ出すのを必死に堪えながら、リコリスたちは神殿の奥へと足を進める。リオン達は彼女の背中を静かに見守っている。
神殿の奥深く、ひっそりと佇む祭壇にたどり着く。
リオンたちが祭壇を調べ始めた、その時だった。
背後から――
鋭い殺気が突き刺さる。
「案内ご苦労だったな。貴様らは生贄にしてやろう。神の力は――我々魔王軍が、もらい受ける。」
背後から聞こえたのは、不気味な男の声。
振り返ると、そこに立っていたのは魔王軍四天王の一人、破壊王ザーグだった。彼の全身からは、邪悪なオーラが溢れ出ている。
リオンは即座に剣を構えアイゼンは魔法を放つ。ネロリはリコリスを守るように構え、マーリンもまた、精霊の力を呼び出そうと集中する。
しかし、ザーグは不敵な笑みを浮かべる。
「無駄だ!この神殿は、我々魔王軍の手に落ちた。貴様らに、勝ち目はない。」
ザーグは巨大な斧を振りかざし、リオンに襲いかかる。
かわした――はずだった。
斧の余波だけで、リオンの身体が弾き飛ばされる。
アイゼンの魔法もザーグの防御に阻まれ、効果を発揮しない。マーリンの精霊魔法も、ザーグの邪気に打ち消されてしまう。
リコリスは、恐怖に足がすくみ、動けない。
「リコリス!逃げろ!」
リオンの叫び声が、リコリスの耳に届く。しかし、彼女の足は、まるで地面に縫い付けられたように、動かない。
ザーグはリオンたちを一蹴し、リコリスに近づく。
「まずはお前からだ!貴様のような弱者が、ここまでこれた理由がわからん。」
ザーグは、リコリスに斧を振り下ろす。
リコリスは、目を閉じる。
その時、リコリスの体から、眩い光が放たれる。
彼女の中に眠っていた精霊の力だ。
――眩い光が、神殿を満たした。
祭壇に刻まれた古い紋様が、呼応するように淡く輝き始める。空気が震え、時が歪むような感覚が全員の肌を撫でた。
「……これは…?」
マーリンが、息を呑む。
リコリスの身体から溢れ出す光は、温かく、しかしどこか不安定だった。それは祝福ではなく、抑えきれずに溢れ出した祈りそのもののようだった。
「クロウさん……」
無意識にこぼれた名前。
その瞬間、光はさらに強くなり、
神殿の奥、祭壇の中央に――歪んだ影が映し出される。
まるで、過去の残像のように。
ザーグは一歩退き、目を細めた。
「ほう……精霊の加護か。いや、違うな」
彼は舌なめずりをする。
「……なるほど。これは“時”に触れようとする者の光か……貴様、禁忌に手を伸ばしているな!」
「リコリス!やめろ!」
リオンが叫ぶ。
だが、リコリスの耳には届かない。
彼女の意識は、別の場所に引きずり込まれていった。
ーーーーー
暗闇。
冷たい風。
そして――
血の匂い。
「……リコリス」
聞き覚えのある声がした。
眩い光が、すべてを飲み込んだ。
悲鳴も、怒号も、崩れ落ちる神殿の音も――
一瞬で遠ざかり、世界は白に塗り潰される。




