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焼け跡から続く光〜薬師の私を攫ったのは、人間嫌いの獣人でした。  作者: 不津倉 パン子
前編 動き出す運命

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手紙

夕方、宿に戻り、部屋の扉を開けた。


その瞬間だった。


空気が、違う…?


ほんのわずかな違和感。

だが、それは確実に胸を刺した。


部屋が静か過ぎるんだ……


机の上に置かれた、小さな紙切れ。


「……?」


心臓が、嫌な音を立てて跳ねる。


ゆっくりと近づき、震える指先でそれをつまみ上げた。


手紙だ。

嫌な予感が、確信へと変わる。


『今までありがとう。

約束通り、この街にお前を置いて行く。

どうかお元気で。風邪引くなよ。』


……それだけ。


短すぎる。

言い訳も、説明もない。

あまりにも一方的で、優しすぎる。


紙を握る手に、力がこもった。


最初に交わした、あの約束。

薬が手に入ったら、安全な街まで送り届ける。


もう忘れたつもりでいたのに。

――そんな約束、守ってほしくなかった。


喉の奥が、ぎゅっと締め付けられる。


「……っ」


息が、うまく吸えない。


リコリスは急いでリオンたちの部屋を訪ねたが、誰もクロウの行き先を知らなかった。


「旅に危険は付き物だ。だからクロウは、きっと自分を守るために去ったんじゃないかな?」


リオンの寂しそうな声。


……分かる。


理屈では、分かってしまう。


でも…


「……そんなの、嫌です!」


声が、震えた。


「やっと……私にも、力があるって分かったのに。クロウさんの力になれるかもしれないのに…」


胸に芽生えた、わずかな自信。

隣に立っていいと思えた、あの時間。


それを、全部置き去りにされるなんて。


クロウのいない世界で、安全に生きる意味なんてあると思えない。


「……身を引いたんじゃないかな。君を想って。」


「それでも、間違ってます!」


リコリスは、はっきりと言った。


「私は……追いかけます!」


視線を上げ、まっすぐに告げる。


「クロウさんがどこへ行こうと……一緒にいます!」


リオンはしばらく黙り込み、やがて静かに頷いた。


「そうだよね。僕たちも探そう!」


その言葉に、胸が熱くなる。


だが、宿を出ようとした一行をアイゼンが静かに遮った。


「クロウは探させません。」


冷たい目。冷たい声。

やはり彼は何を考えているのか分からない。


「うーん…アイゼン、話聞いてた?みんな困ってるんだけど?てか、おにいちゃんを探させないってどういうこと?」


ネロリが詰め寄る。


「言えません。『男と男の約束』とはそういうもの、らしいです。」


頑ななアイゼンの態度に、ネロリはため息をついた。


「そっかぁ…ねえアイゼン…『男と男の約束』って何か分かってて言ってる?」


「いいえ。先ほどクロウに教えてもらいました。」


「そっか…じゃあ獣人族だけに伝わる裏ルールは知らないんだね!」


「はい。知りません。」


アイゼンの返事を聞いたネロリは、にこっと笑う。


「獣人族がする『男と男の約束』ってね、相手の妹が“破れ”って言ったら破らなきゃいけないんだよ!」


「……そうなんですか?」


「そうなの。獣人族って変でしょ?」


ネロリの暴論。それに淡々と返すアイゼン。


こんな時に何をやっているんだろう…?


一刻も早く、クロウさんを探しに行きたいのに。

こんな時に、遊んでる場合じゃないのに。


リコリスは焦燥感に焼かれ、おかしくなりそうだった。


一拍置いて、ネロリがアイゼンの肩を叩く。


「じゃあ……アイゼン、約束破ろっか。」


こんなので彼は説得できるの…?


リコリスの心配をよそに、アイゼンはあっさりと口を開いた。


リコリスと旅を始めてから、

人間への恨みなんてどうでもよくなっていた。


今の旅はただただ、楽しかった。


薬の副作用で、もう長く持たない。

次で終わる。いや、次もないかもな。


彼女が知れば、自分を責めるだろうから、

絶対に知られたくない。


本当は見送るだけでなく、

難癖つけて一生となりにいるつもりだった。


――それは、叶わないから。 


だから置いていく。

ここなら安全だから、もうリコリスは傷付かない。


本当にいい女だった。人外の俺なんかよりも、アイツを幸せにできる男はいくらでもいる。


……アイゼン、お前は絶対に手を出すなよ。


アイゼンの口からクロウの言葉が、淡々と語られる。その意味も、隠された感情も理解せず、ただ淡々と、言葉が続いていった。


「……クロウさん……」


胸が、ぎゅっと締め付けられる。


「おにいちゃん……めっちゃリコちゃんのこと好きじゃん!!絶対に見つけ出してやるんだから!!」


震えるネロリの声がする。


目には涙を浮かべ…でもネロリは泣いていない。

彼女は、もう十分強い。


「アイゼン。クロウを探すのを手伝ってくれる?」


「……わかりました」


リオンが手を差し出し、アイゼンはそれにかえした。


「私たち、意外といい仲間でしょう?」


マーリンが、静かに笑う。


「リコリスも、クロウも……大切な仲間ですからね」


置いていかれたまま、終われるはずがない。

こうして、一行は再び宿を出た。



だが――

広大な街の中に、クロウの姿はない。


人混みの中。

リコリスは必死に、あの背中を探し続けた。


祈るように。

縋るように。


まだ、生きていて。

まだ、間に合って。


まだ、終わらせないために。

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