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焼け跡から続く光〜薬師の私を攫ったのは、人間嫌いの獣人でした。  作者: 不津倉 パン子
前編 動き出す運命

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20/58

恋の話

その夜、宿屋の食事処で

落ち着いた夕食を共にしていた。


温かくて美味しい食事、

つかの間の平穏だった。


「あれ?アイゼンさんは……?」


リコリスが辺りを見回す。

確かに、あの無表情な彼の姿がない。


「女でも漁りに行ったんだろ。」


クロウがまるで当たり前のようにとんでもない事を言う。


「えっ……?」


リコリスが戸惑っていると、

リオンが苦笑いをする。


「彼は人間の快楽を糧にする種族、『色魔族』だからね。大きな街の娼館に行ったんだと思うよ。」


その口調は淡々としていて、まるで天気の話をするかのようだった。周囲も特に気にした様子はない。


「……皆さん、普通に受け入れているんですね。」


「彼からしたら、食べ物を生きる糧にする私たちの方が不思議な存在ですからね。」


マーリンが笑っている。この世界にはいろんな人種がいることを改めて感じた。


「魔族の方が、人間の味方をしてくれているなんて……優しい方なのですね。」


リコリスは、どこか感心したように呟く。

だが、その言葉を、クロウは鼻で笑った。


「何を今さら…魔族も亜人も、お前ら人間からすりゃ全部“人外”だろ。」


空気が、わずかに冷える。

リコリスは何も返せなかった。


クロウが人間を嫌っていることは、

分かっているのに……


改めて突きつけられると、胸の奥がちくりと痛む。


「ちょっとおにいちゃん!?やっぱりリコちゃんの事イジメてるじゃん!!リコちゃんはもう私の子にしますっ!おにいちゃんにはあげないもん。」


ネロリがリコリスに抱きつきフォローを入れる。ネロリは強い力でリコリスを抱きしめスリスリと頬ずりをする。


彼女の明るさには救われてばかりだ。


「えっと…私はクロウさんと約束があるので…」


「……だな。だから、それまでは俺のモンだ。」


俺のモノ……?

それはどういう意味?


約束が終わったら…?


リコリスはクロウの言葉が引っかかる。その言葉が引っかかったのはリコリスだけではなかった。


「おにいちゃん!リコちゃんのこと好きなんだ!?えへへ〜やっぱそんな気がしてたんだ!!ねぇ、付き合ってるの?チューはした?じゃあリコちゃんは将来私のおねえちゃんになってくれるの?」


「なんでだよっ!」


お年頃の女子は恋愛話が大好物のようで、ネロリは今まで見せた笑顔のなかでいちばん輝く笑顔を見せている。


クロウはそれを否定するが、少し顔が赤くなっている。


「初めてのキスはクロウさんからでしたね。」


「お前までっ!?」


リコリスは話題に乗っかってみた。今まで恋愛なんてものには縁がなく、ずっと憧れていたからだ。


「リコリス、馴れ初め教えてくださいよー。」


マーリンも興味があるようだ。


「ぐぬぅ…リコリス、あんまり変な話はするなよ……。」


クロウは気に入らないようだったが、旅の思い出話に花が咲いた。笑い声もあった。


穏やかな時間だった。


ーーー


宿の部屋に戻ると、

リコリスはクロウをベッドに座らせた。


顔色は、良くない。

呼吸も、どこか浅い。


「……また、隠してましたね。」


静かな声だった。


「ハァ……何がだよ……」


「薬の副作用。さっき、苦しそうでした。」


一瞬、クロウの視線が逸れる。


「そんなの、どうでもいいだろ……」


次の瞬間、距離が一気に詰まりベッドに押し倒されるリコリス。


唇が触れる。


「なぁ、リコリス……」


誤魔化すような、焦るようなキス。


「誤魔化せませんよ……?」


リコリスは、キスを拒まなかった。

けれど、問いかけることもやめなかった。


クロウは、彼女の額に額を寄せ、低く囁く。


「……誤魔化されろ、リコリス。」


そして、続く言葉。


「好きだ。」


耳元で告げられたその一言に、思考が揺らぐ。


「……私だって。」


リコリスの声は、震えていた。


「クロウさんが、好きです。」


「なら……いいだろ?」


再び、唇が重なる。


ちゃんと、話さなきゃ……

このままじゃ、いけないのに……


分かっている。クロウが薬に頼っていることも。その先に待つ結末が、決して明るくないことも。


――それでも。


今、この人を突き放すことができなかった。

今日は目を逸らしていたかった。


クロウが求めるままに、リコリスはその温もりに身を委ねてしまう。


誰も傷つけたくないのに。

一番大切な人を、失う未来がちらついているのに。


夜は静かで、

星は綺麗で、

だからこそ、不安はより濃く胸に沈んでいった。


この幸せは――

いつまで続くのだろうか。


リコリスは言いようのない胸騒ぎを、

ただ抱きしめるしかなかった。


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