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焼け跡から続く光〜薬師の私を攫ったのは、人間嫌いの獣人でした。  作者: 不津倉 パン子
前編 動き出す運命

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19/58

覚醒

遺跡の内部調査は、静かに進んでいた。


古代文字が刻まれた壁、

朽ちかけた祭壇、 


かすかに残る精霊の気配。

まるで遺跡全体が眠っているように感じる。


マーリンとリオンが記録を取り、リコリスは遺跡そのものと“呼吸が合う”ような、不思議な感覚を覚えていた。


 ――その時。


ドォン!!ドンドンドンッ!!!!


地鳴りのような轟音が、遺跡全体を揺るがす。


「来るっ……!」


リオンが即座に剣を抜く。


遺跡の入口が破壊され、魔王軍の兵士たちが雪崩れ込んできた。


「みんなっ!蹴散らすよ!」


リオンの号令とともに、戦闘は一気に加速する。

剣と魔法が交錯し、魔王軍は次々と倒れていった。


召喚陣が輝き、

巨大な魔物が姿を現す。

魔王軍の物量はいつも圧倒的だ。


「邪魔だっ!下がってろ!!」


低い声と共に、一匹の魔獣が飛びかかる。


黒い毛並み、鋭い牙。

獣人薬を使ったクロウだった。


圧倒的な力で魔物を押し倒し、その喉元を噛み裂く。


「おにいちゃん、その姿……!」


ネロリの声が震える。


彼女の表情は、恐怖で強張っていた。

実験台にされた、あの日々の記憶。


――あの日、無理矢理背負わされた“力”と同じだった。


だが、クロウは振り返らない。


「面倒くせぇ。さっさと片付けるぞ!」


獣の咆哮と共に、魔王軍を薙ぎ払っていく。


「……俺も本気で行きますね。」


その背後。


異様な魔力が膨れ上がった。


アイゼンだ。


静かで無表情だったリオン達の仲間のひとり。


眼鏡の下に見える漆黒の目は深い闇のように冷たい。頭から伸びる悪魔のような角を見るに、彼は魔族だろう。


詠唱もなく放たれる魔法が、戦場を飲み込む。


彼は戦っているのではない。

目の前の邪魔者を処理しているだけに見えた。


……何者なの、この人。


次の瞬間にはもう、全て終わっていた。


魔王軍は、全滅。

圧倒的な勝利だ。


だが。


ミシ……ミシ……


不穏な音が、頭上から響く。


「――まずい、神殿が!」


天井に走る亀裂。ボロボロと降ってくる瓦礫。


「逃げるぞ!!」


リオンの叫びと同時に、一行は撤退を開始する。


しかし、


獣の姿が崩れ、人の姿へと戻ったクロウが


――膝をついた。


「……ぐっ……ぐはぁっ!!」


血を吐く。


「クロウさん!!」


リコリスには分かっていた。

恐れていた事がついに起きてしまった。


薬の副作用だ。


リコリスはクロウに駆け寄る。


「クロウさん!何で、どうしてこんなになるまで黙ってたんですか!?」


「……別に。お前には関係ない……」


そう言いながら、クロウの体は小さく震えていた。


「そんな事、言わないでくださいよっ!!」


リコリスはクロウを心配するあまり、

巨大な瓦礫が落ちてくるのに気がつけなかった。


「逃げて!!」


ネロリの悲鳴。


だが、リコリスにはクロウを抱えて走る力がない。


抱き上げようとしても、腕に力が入らない。

自分の身体が、ひどく頼りなく感じた。


……間に合わない。

クロウさんだけでも助けたいのに…!


その瞬間。


ゴゴ……ッ


石の擦れる音。先ほど鎮めたはずの、ゴーレムだ。その巨体が一行の前に立ち、瓦礫を受け止める。


「……まさか」


マーリンが息を呑む。


「リコリスの危険を察知して……起動した?」


リコリスの胸元が、淡く光っていた。


リコリスの意志に、遺跡そのものが応えたのだ。崩壊する神殿の中、ゴーレムは最後まで盾となりリコリス達を守り続けた。


そして、

神殿の外へ。


「ゴーレムさん、助けて頂きありがとうございます。お家を壊しちゃってごめんなさい。」


リコリスはゴーレム達に感謝と謝罪を伝えた。


クロウは何事もなかったかのように振る舞った。


「あぁーー疲れた。さっさと帰ろうぜ。」


強がりの声。


リコリスは分かっていた。


次は、ないかもしれない……


力を得る代償。

守るために傷つく現実。


リコリスは、静かに拳を握りしめた。


……もう、誰も犠牲にしたくない。


精霊使いとして。

そして、クロウの隣に立つ者として。


彼女は、さらに強くなることを誓うのだった。

守られるだけの存在では、もういたくなかった。

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