表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
焼け跡から続く光〜薬師の私を攫ったのは、人間嫌いの獣人でした。  作者: 不津倉 パン子
前編 動き出す運命

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/58

石の神殿

遺跡へ向かう道すがら、マーリンは周囲を一度見渡してから歩調を落とし、リコリスの隣に並んだ。


「精霊使いについて、少し話しておきましょう」


穏やかな声だった。


「精霊使い…?ですか?」


「精霊使いは、自然界に存在する精霊と心を通わせ、その力を借りる存在。ですが…その力は、誰にでも宿るものではありません。」


リコリスは、緊張した面持ちで頷く。


「精霊はとても気難しい存在。力を欲する者、支配しようとする者、恐れる者……そういう心には、決して応えてくれないのです。」


マーリンは、わずかに苦笑する。


どうして急にそんな話をするんだろう…? 


リコリスは戸惑いながらも興味深く、マーリンの話を聞いていた。


「心から自然を想い、命を等しく尊び、“力を使わないで済むならそれでいい”とまで思える者にしか宿らない。」


その言葉は、リコリスの胸に静かに沈んだ。


「そんな精霊使いの力があなたに眠っています。」


「えっ……?」


私はそんな立派な人間じゃない。

罪も後悔も、数え切れないほど抱えている。


リコリスは何かの勘違いだと言いかけた―


――その時だった。


ゴゴゴ……ッ


大地が、うねるように揺れた。


「なっ……!?」


地鳴りが空気を震わせ、一行は思わず足を止める。

次の瞬間、遺跡の奥から、巨大な影が姿を現した。


石で組み上げられた巨体。

赤く光る双眸。


「侵入者……排除、スル……」


古代のゴーレムだ。


クロウが一歩前に出る。彼はいつも、誰かを庇うように飛び出していく。


だが、今日だけは、その足取りがほんの一瞬だけ鈍った。


「ちっ……おいリオン!こんなの聞いてねぇんだが?」


「私たちだけで来た時は、こんなの出て来なかったのに!!」


ネロリが声を上げる。


リオンは迷いなく聖剣を抜き、

魔導士の仲間、アイゼンも構えた。


だが――


剣撃も、魔法も、ゴーレムの装甲に弾かれる。


「硬すぎる……!」


じりじりと距離を詰めてくるゴーレム。


その時、マーリンが前へ出た。


「――下がってください!」


杖を構え、精霊への呼びかけを試みる。


だが……


何も、起こらない。


「……やはり、ダメみたいです。」


マーリンは悔しそうに目線を落とす。


「この遺跡と、私は相性が悪いんです。」


そしてその視線が、リコリスへ向いた。


「リコリス、あなたの力が必要です。このゴーレムはおそらく、あなたの力に反応して出てきたものです。」


「……私、ですか?」


「はい。この遺跡は……あなたに反応している。だから私たちだけで来た時は何も起きなかったのだと思います!」


言われて初めて、リコリスは気づいた。


遺跡の文様が、かすかに光っている。

自分が近づくたび、鼓動のように。


迫るゴーレム。


逃げ場は……

ない。


「あなたの声を届けるイメージです!」


マーリンのアドバイスが聞こえる。リコリスは震える指を握りしめ、目を閉じた。


……怖い


でも…


それでも……


もう誰も傷つけたくない。


ゴーレムを壊したくない…

いや、壊さなくていい。


そんな気がしていた。


「……ゴーレムさん!」


声は、かすれていた。


「どうか……鎮まってください!!」


その瞬間。

胸の奥に、温かな光が灯った。


 ――声が、聞こえる。


『恐れるな、リコリス』


重く、優しい声。


『お前の心は、私と繋がっている』


リコリスは、はっと息を呑む。


『導け。破壊ではなく、休息へ。』


気づけば、リコリスは一歩前に出ていた。手を、ゴーレムへ向ける。眩い光が彼女の体から溢れ出す。


それは支配の光ではない。

癒しと、理解の光。


ゴーレムの動きが、止まる。


赤く燃えていた双眸が、静かに色を失っていく。


そして……


静寂。


ゴーレムは、完全に石と化した。


「……終わった……の?」


リコリスは、その場にへたり込んだ。


自分の手を見つめる。


……私が、やった……の?


マーリンが、ゆっくりと歩み寄る。

その表情には、驚きと、確信があった。


「間違いないです…」


おだやかに、しかしはっきりと言う。


「あなたには精霊使いの力があります!」


クロウは何も言わず、リコリスの肩に手を置いた。

その手の温もりが、現実を教えてくれる。


「……すげぇよリコリス。」


短い言葉。

けれど、そこには誇りがあった。


リコリスは、ようやく理解した。


逃げ続けてきた“力”を。

恐れてきた“自分”を。


この力は、誰かを傷つけるためのものじゃない。


守るために、繋がるためにある。


遺跡の奥で、扉が静かに開く音がした。


選ばれたのは、マーリンではない。

勇者でも、剣でもない。


――リコリスだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ