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焼け跡から続く光〜薬師の私を攫ったのは、人間嫌いの獣人でした。  作者: 不津倉 パン子
前編 動き出す運命

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仲間

村に帰ったリコリスをカイルやベニが迎えた。


「あれ?クロウの奴は…?まさか…そんなことないよな?」


カイルが動揺して青ざめている。

心からクロウを心配してくれているのが伝わる。


「…そんな訳ないだろ。ナメるなよ?」


クロウの声が背後から聞こえる。

その声は、いつもより少し低く、短かった。


「世話になったな、明日には村を出発する。」


「えぇー寂しいなぁ…このままふたりでここにいればいいのに。小さな教会だってある。結婚式もここで出来ちゃうよ?」


「…リコリス、今すぐ出発だ。」


「冗談だって。せめて今日はゆっくりしてきな!」


村を出発すればカイルと楽しそうにするクロウはもう見れない。なんだか少し寂しい気がしてきた。


ーーー


次の日の朝、

カイルたちに見送られ、村を出発する。


「勇者リオンさんなら石の神殿に行くって言ってましたよ!」


ベニから勇者リオンの情報を聞き、次の目的地を石の神殿とした。


ーーー


遺跡へ向かう道中、小さな村に立ち寄った。山と森に守られたその村は、どこか穏やかな空気をまとっている。


「おにーちゃん!!久しぶりーー!!」


村の中心から、弾けるような声が響いた。


次の瞬間、白い影がクロウに飛びつく。


「……っと」


綺麗な白髪。

頭の上には、ぴょこんと揺れる獣の耳。


「ネロリじゃねぇかっ……!」


クロウは目を見開き、すぐに苦笑する。


「元気そうだな」


「えへへ!おにいちゃんもね!」


ネロリ――


クロウの妹であり、かつてリコリスが働いていた研究所で“実験体”として扱われていた獣人の少女。


その姿を見た瞬間、

リコリスの胸はきつく締め付けられた。


あ……


足が、止まる。

喉が、詰まる。


自分は、あの研究所の一員だった。


直接手を下さなかったとしても、

同じ場所で、同じ空気を吸っていた。


罪悪感が、今さらのように重くのしかかる。


思わず、視線を逸らした、その時。


「……?」


ネロリがクロウの背後にいるリコリスを見つけた。


一瞬、きょとんとして……

次の瞬間、ぱっと顔を輝かせる。


「リコちゃん!!」


ネロリは、迷いなく駆け寄ってくる。


「リコちゃん無事でよかった!ずっと心配してたんだから!!」


両手を取られ、満面の笑みを向けられた。

そこには、恨みも、怒りも、恐怖もない。


ただ――再会を喜ぶ、まっすぐな感情だけ。


「……ネロリちゃん……」


リコリスの視界が滲む。


「ごめんなさい……」


声が、震えた。

涙が流れた。


私は…彼女に酷いことをしたのに…

私は……たくさん傷つけた悪者なのに…


どうしてそんな顔をしてくれるの…?


「ネロリちゃん、本当にごめんなさい…」


絞り出すような謝罪。

ハッキリとした声で謝罪すらできない

そんな自分が情けない。


「リコちゃん、何言ってるの?私、知ってるよ。リコちゃんが助けてくれてたこと。」


「……え……?」


「危ない人体実験に回されないように、何回も止めてくれてたじゃん。あの時、すごく怖かったけど……リコちゃんがいたから、頑張れたんだよ」


その言葉に、胸の奥で何かがほどけた。


張り詰めていた糸が、音もなく切れる。

リコリスは、涙が止まらなくなっていた。


「えへへ!だからもう泣かないの!」


ネロリはリコリスを抱きしめ笑う。

その温もりで心が軽くなった気がした。


少し離れた場所で、クロウはその光景を静かに見守っている。


「ネロリちゃん…ありがとうね……」


リコリスはネロリの腕の中でつぶやいた。 

いろんな感情がぐちゃぐちゃになっていた。


「だからもういいんだってっ!泣かないのって………まさかっ!?おにいちゃん!リコちゃんのことイジメてるんでしょ!!だからリコちゃん泣き止まないんだ!おにいちゃんサイテーー!!」


「なんでだよ!!」


「……ふふっ」


リコリスはどこかで聞いたようなやりとりに思わず笑ってしまった。


クロウは、リコリスの表情を一瞬だけ見て、

何も言わずに視線を逸らした。


その時。


「噂には聞いておりましたが……」


落ち着いた声が、場の空気を変えた。


長いローブをまとった女性がリコリスに歩み寄る。

知性と柔らかさを併せ持つ眼差し。


「クロウさんが人間の女性を連れて旅をしていると噂で聞いておりましたが。本当だったのですね。」


微笑みながら、軽く頭を下げる。


「賢者マーリンと申します。お会いできて光栄です」


「……!」


リコリスは、背筋を正す。


「えっと、リコリスと申します!!」


その隣で、赤い鎧を纏った女性が興味深そうにこちらを見ていた。凛とした佇まい。その存在感だけで、只者ではないとわかる。


――勇者リオンだ。


「人間嫌いのクロウが人間の女性と一緒にいたと聞いてね、心配してたんだ。酷いことされてない?」


リオンは、静かに言った。


「なんでお前までっ!」


クロウは不服そうに腕を組んでいる。


「冗談はさておき…君、特別な力を持っているみたいだね。僕達に協力してくれないかな?」


リオンはリコリスに握手を求めた。


優しくて力強い雰囲気の彼女に惹かれる。

これが勇者の器なんだ……


リコリスは、深く息を吸い、言葉を選ぶ。


「特別な力なんて私にはありません。ですが、私には研究者時代に学んだ薬学の知識があります。皆さんのお力になりたいです!」


マーリンは、静かに頷いた。


「あなた、自分の力に気が付いていないのですね。」


そして、遺跡の方角へ視線を向ける。


「でしたら、あなたの力についてお教えします。“あの場所”がよいでしょう。」


古代の知識が眠る場所。


「石の遺跡へご案内します。」


マーリンの言葉に、一行の視線が揃う。


リコリスは、胸に手を当て、静かに決意した。


自分に力があるなら知りたい。

運命からは逃げない。


自分が何者で、何を持ち、何を背負うのか。


赦しを受け取った今だからこそ。


彼女は、前へ進む。


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