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悪と呼ばれたネクロマンサー 〜拾えない命を拾うために、僕は悪を選んだ~  作者: よすが


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第82章「英雄は剣を抜く」


 角笛の音は、

 砦の上を越えて響いた。

 低く、

 澄んだ音。

 人々がよく知る音だった。

 クロは、

 顔を上げる。

 死霊の向こう。

 砦の外。

 軍列が、

 見えた。

 整った隊形。

 乱れのない歩調。

 その中央。

 白銀の鎧。

 太陽を反射する剣。

 勇者だった。

 兵の誰かが、

 小さく声を上げる。

「……勇者様だ」

 その声は、

 安堵に近かった。

 勇者は、

 砦の惨状を見渡す。

 倒れた兵。

 蠢く死霊。

 血と煙。

 だが、

 表情は変わらない。

「……確認した」

 落ち着いた声。

「ネクロマンサーは、

 討伐対象である」

 それだけだった。

 剣が、

 抜かれる。

 音は、

 静かだった。

 勇者は、

 一歩前に出る。

 死霊が、

 反応する。

 唸り声。

 骨が擦れる音。

 クロは、

 杖を握り直した。

「……来たか」

 勇者の視線が、

 クロを捉える。

 そこに、

 怒りはない。

 憎しみもない。

 あるのは、

 役目だけだった。

「クロ」

 名を呼ばれる。

「これ以上の被害は、

 看過できない」

 クロは、

 笑った。

 短く。

「……正義やな」

 勇者は、

 否定しない。

「そうだ」

 次の瞬間。

 勇者が踏み込んだ。

 速い。

 死霊が、

 一斉に襲いかかる。

 剣が、

 閃く。

 骨が砕ける。

 腕が飛ぶ。

 死霊が、

 次々と崩れ落ちる。

 だが、

 完全には止まらない。

 クロは、

 杖を振る。

 地面が割れ、

 さらに死霊が溢れる。

 勇者は、

 止まらない。

 一体ずつ、

 確実に斬る。

 前へ。

 ただ前へ。

 クロとの距離が、

 縮まる。

(……強いな)

 初めて、

 そう思った。

 勇者の剣が、

 杖を弾く。

 衝撃。

 腕が痺れる。

 クロは、

 一歩下がった。

「……終わりだ」

 勇者が言う。

 その声は、

 どこまでも静かだった。

「お前は、

 これ以上生かせない」

 クロは、

 砦の奥を見る。

 動かない影。

 守れなかった人たち。

「……逃げろって

 言ったのにな」

 誰に向けた言葉か、

 分からない。

 勇者が、

 踏み込む。

 光が走る。

 その瞬間。

 クロは、

 最後の命令を下した。

「……行け」

 死霊たちが、

 一斉に勇者へ向かう。

 自分を、

 盾にするように。

 光が、

 爆ぜる。

 死霊が、

 一体、また一体と

 崩れ落ちる。

 そして。

 剣が、

 クロの胸を貫いた。

 一瞬。

 勇者の眉が、

 わずかに動いた。

 何かが、

 剣を伝って

 脈打った気がした。

 次の瞬間、

 それは消える。

 クロの身体が、

 崩れ落ちる。

 膝が折れる。

 視界が揺れる。

 血が、

 地面に落ちる。

 だが、

 落ちた血は、

 一瞬だけ

 黒く沈んだ。

 すぐに、

 ただの赤に戻る。

 勇者は、

 それを見なかった。

 クロは、

 空を見上げる。

 煙の向こう。

 朝の光。

「……灯り、

 消えへんやろ」

 かすれた声。

 息が、

 途切れる。

 勇者は、

 剣を抜き取る。

 血が落ちる。

 クロの身体は、

 動かない。

「ネクロマンサー、

 クロ」

「討伐完了」

 その宣言は、

 淡々としていた。

 英雄は、

 剣を納める。

 だが。

 砦の地面の下で、

 何かが、

 ほんのわずかに

 脈打った。

 誰も、

 気づかなかった。

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