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悪と呼ばれたネクロマンサー 〜拾えない命を拾うために、僕は悪を選んだ~  作者: よすが


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最終章「残ったもの」


 三日後の夜だった。

 森の奥。

 焚き火は小さく揺れている。

 煙の匂いは、

 まだ消えていない。

 ミケは、

 膝を抱えて座っていた。

 肩が、

 小刻みに震えている。

 あの朝、

 ミケは走った。

「走れ」

「振り返るな」

 レインの声。

 カイの手。

 背中を押された感触が、

 まだ残っている。

 森の縁で、

 一度だけ足が止まった。

 煙が上がっていた。

 その中に、

 ひとつだけ

 違う揺れがあった。

 地面が、

 わずかに震えた。

 空気が、

 沈んだ。

 知っている感覚だった。

「……戻ったんやろ」

 森に向かって、

 呟く。

 クロは、戻った。

 自分を助けに行くはずだった人が、

 砦へ戻った。

 分かった。

 分かったのに、

 足は動かなかった。

「……あほ兄弟」

 声が震える。

「クロもや」

 誰が一番あほなのか、

 分からない。

 矢筒を握る。

 中は、

 ほとんど空。

 それでも、

 手放さない。

「……助けるって

 言うたやん」

 兄にか、

 クロにか、

 自分にか。

 分からないまま、

 焚き火が揺れる。

 森の奥で、

 枝が折れる音がした。

 ミケは、

 反射的に身構える。

 現れたのは、

 人影だった。

 重い足取り。

 鎧はない。

 盾もない。

 血と泥に塗れた、

 一人の女。

 ヨルだった。

 ミケは、

 息を呑む。

「……生きとる」

 ヨルは、

 膝をつき、

 そのまま倒れ込む。

 呼吸は、

 かすかにある。

 ミケは駆け寄り、

 必死に身体を支える。

「……クロは?」

 ヨルは、

 目を開けないまま、

 小さく首を振った。

 それだけで、

 十分だった。

 ミケは、

 唇を噛む。

 煙の向こう。

 朝の光。

 何があったのか、

 全部は分からない。

 だが。

 戻ったことだけは、

 知っている。

 ―――

 瓦礫の下。

 暗く、

 狭い空間。

 小さな呼吸音。

 レオは、

 母の腕の中にいた。

 冷たい。

 だが、

 生きている。

 上から、

 光が差し込む。

 揺れる影。

 サラだった。

 血に染まり、

 息は荒い。

「……大丈夫」

 それだけ言って、

 レオを抱き上げる。

 外へ出す。

 その直後、

 力尽きた。

 レオは、

 泣かなかった。

 ただ、

 生きていた。

 ―――

 砦跡。

 兵は、

 去っている。

 残っているのは、

 瓦礫と、

 焼け跡と、

 動かない影。

 朝は、

 何も変わらず昇る。

 森の奥で、

 ヨルが息をする。

 焚き火の前で、

 ミケが空を見る。

 瓦礫の下から、

 ひとつの命が外に出る。

 全部は残らなかった。

 だが。

 灯りは、

 消えていなかった。


シーズン1・完

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