第73章「朝に立つ者」
朝だった。
残灯の砦は、
いつもより静かだった。
七日のうち、
五日が過ぎていた。
補給は止まり、
街道の目は増え、
協会の監視は
露骨になっている。
クロは、
砦の中央に立っていた。
いつもの外套。
いつもの杖。
特別な準備は、
何もしていない。
ミケが、
最初に気づく。
「……クロ?」
人が、
集まってくる。
クロは声を張らない。
「俺が、行く」
沈黙。
「勇者の選択肢や」
「三つある言うたな」
「……俺が出頭する」
「それで、
あいつらの“理由”を
一つ潰す」
ミケが前に出る。
「それ、
時間稼ぎやろ?」
「……ああ」
「七日目に剣が来るなら、
六日目に俺が行く」
ヨルが動かない。
「……戻る気は」
「ある」
一拍。
「……約束はできへん」
フェイの声が震える。
「それで、
砦は守れるん?」
クロは首を横に振る。
「守れる保証はない」
「でも、
守らせる理由は作れる」
誰も、
完全には理解できない。
それでも。
クロは続ける。
「逃げろとは言わん」
「残れとも言わん」
「俺がいなくても
残るなら」
「その時は、
本当に“選んだ”ことになる」
ミケが歯を食いしばる。
「……ずるいな」
「……せやな」
クロは一度だけ振り返る。
砦を見る。
人を見る。
「灯り、消すなよ」
歩き出す。
誰も、
見送らなかった。
見送れば、
別れになるからだ。
朝日は、
平等に砦を照らす。
まだ、
何も終わっていない。




