第72章「残灯の砦、ある日のこと」
朝。
残灯の砦は、
今日も騒がしかった。
「おい!
それ、逆や!」
ミケの声が響く。
「逆ちゃう!
この図面、こうなっとる!」
レインが木材を抱えたまま言い返す。
「それ“壁”やなくて“仕切り”や言うてるやろ!」
カイは無言で、
すでに釘を打ち始めていた。
「……おい、話聞け!」
フェイは少し離れたところで
鍋をかき回しながら笑う。
「形になってるだけ、ええやない」
砦の上。
「……騒がしいな」
「今さらやろ」
ヨルが盾を磨く。
「人が増えた。音も増える」
クロは何も言わず、
その光景を見ていた。
中庭。
「それ昨日のやつやろ!」
「味変わらへんて!」
「変わる!」
ミケが焼き物をひっくり返す。
「文句言うなら自分で焼きぃ!」
その横で、
レオが毛布にくるまり、空を見ている。
「……におい、いい」
「やろ?」
フェイが額に触れる。
「今日は自分で座って食べよな」
レオは、
小さく身体を起こす。
少しだけ、長く。
昼。
修繕中の壁が、
派手な音を立てて崩れた。
「……あ」
全員の視線。
カイが静かに手を挙げる。
「……すまん」
次の瞬間。
笑いが広がる。
「どうせ作り直す予定や!」
「最初から歪んでたしな!」
クロはその光景を見て、
何も言わなかった。
夜。
焚き火を囲む。
「なあクロ」
ミケが言う。
「もしここ、もっと大きなったら
看板とか出す?」
「……何の」
「名前や」
クロは火を見る。
「……今のままでええ」
「灯りが残っとる」
ヨルが小さくうなずく。
「……消えてない」
火は揺れる。
砦も揺れる。
それでも、
誰も離れなかった。




