第69章「試す標」
昼。
残灯の砦の外れに、
白と灰の外套が三人、戻ってきた。
昨日の調査官だ。
「……本日は“確認”を一つ」
石箱が置かれる。
拳ほどの白い柱。
表面に細い溝。
底に小さな紋。
「浄化標です」
「街道の安全維持に使う簡易魔具」
「異常魔力を検知し、浄化します」
ヨルが盾に手を添える。
「……ここで?」
「“ここで”が最適です」
柱が据えられる。
「……起動」
淡い光。
最初は、何も起きない。
風。
草。
次の瞬間。
空気が、薄くなる。
レオが奥で咳き込む。
老人が膝をつく。
子供の呼吸が浅くなる。
「……止めろ!」
溝が黒く染まる。
吸っている。
死を。
「……戦場の残滓が」
調査官の声が揺れる。
「砦の周囲に“死”が滞留している」
クロは理解する。
止めるには、抜くしかない。
ヨルが一歩出る。
「……見られる」
「……分かってる」
杖が地面に突き立つ。
「……ここは、命の場所や」
重い沈み。
黒いものが、
白い柱から剥がれ、
杖へ引き寄せられる。
呼吸が戻る。
泣き声。
光が消える。
白い柱は、ただの石になる。
沈黙。
調査官は帳面を開く。
「……死霊反応、確定」
「今のは、俺が起こしたんやない」
「承知しています」
「ですが、あなたが介入した事実も記録します」
ミケが食ってかかる。
「止めたんや!」
「救ったんや!」
調査官は揺れない。
「救済と危険性は両立します」
それだけ。
門を出る前、
一人が振り返る。
「……砦の外縁は、死に近い」
去る。
残ったのは倒れた人ではない。
記録。
クロは杖を見る。
「……助けた」
「せやな」
ミケは火を見る。
「でも、これで終わらん」
砦の灯りは、揺れない。
だが。
測定値は、残った。




