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第68章「英雄は、近くにいる」
午後。
砦の外、
街道が騒がしくなった。
「……軍や」
白地の旗。
剣と光の紋。
勇者の部隊だった。
近い。
だが、来ない。
ただ、通る。
隊列は乱れない。
視線も、逸れない。
ヨルが盾を背負う。
「……来ないな」
「……来へん」
ミケが答える。
そのとき。
先頭の馬が、
わずかに歩を緩めた。
地図で記された場所。
報告にあった名。
残灯の砦。
勇者が、
馬上から砦を見る。
距離はある。
声は届かない。
それでも、
目だけは、届く。
クロは、
砦の上に立っていた。
動かない。
礼もしない。
挑まない。
ただ、立つ。
風が吹く。
勇者は、
剣に手をかけない。
代わりに、
側近へ短く言う。
「……把握している」
それだけ。
馬は進む。
部隊も動く。
白い旗は、
やがて森の向こうへ消えた。
砦の上で、
クロは動かない。
剣は抜かれなかった。
だが。
英雄と残灯は、
互いの存在を、
否定しなかった。




