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第67章「残るという選択」
朝。
残灯の砦に、
静かな変化があった。
荷をまとめる者が、
少しだけ増えた。
「……ここ、協会が見とるんやろ」
「せや」
「……なら、先に行く」
引き止める者はいない。
責める声もない。
ただ、見送る。
ロクスが、
荷を持つ男に水袋を渡す。
「……道、気をつけて」
男はうなずき、
振り返らずに去った。
同じ時間。
別の場所で、別の会話。
「……残る」
「分かっとる」
「危ないって」
「……それでも」
視線は、
クロではなく、
焚き火に落ちる。
理由は言葉にならない。
ヨルが、
見張り台から言う。
「……人数は減った」
「……でも」
「……迷いは減った」
ミケが鼻で笑う。
「分かりやすいな」
「残る奴は残る」
昼。
旅人が聞いてきた。
「ここ、泊まれる?」
「……泊まれる」
「でも」
「……何が起きても自己責任や」
旅人は一瞬迷い、
砦の奥を見る。
子供の笑い声。
薪を割る音。
そして、うなずいた。
「……それでええ」
クロは、そのやりとりを聞いていた。
誰も、彼を見ない。
それでも、
残るという言葉は、
彼の周りで選ばれる。
噂は、
もう恐れではなく、
判断材料になっていた。
去る者は去り、
残る者は残る。
それだけだった。




