第64章「秩序を守る者たち」
白い建物だった。
王都でも、特別に静かな区画。
聖具協会・中央評議室。
壁に掲げられているのは、
剣でも紋章でもない。
規則。
「……報告は以上です」
若い調査官が書類を置く。
「戦場における魔力反応」
「通常の魔法体系とは異なる波形」
「死霊術の可能性、中」
“中”。
断定ではない。
だが、否定でもない。
「……証拠は」
年配の評議官が問う。
「直接の行使者は確認できていません」
「……しかし」
地図を指す。
「痕跡は、この地点から始まっています」
赤い印。
「……残灯の砦」
誰も驚かない。
「避難民が集まっている場所だな」
「はい」
「武装は限定的」
「軍事組織ではありません」
一人が言う。
「……では、放置でよいのでは?」
別の評議官が首を振る。
「“放置”が一番危険だ」
「秩序は、静かに壊れる」
誰も感情を挟まない。
「……死霊術は禁止体系だ」
「理由は明確」
「扱う者が悪かどうかではない」
「制御できない力は、
やがて制御できない結果を生む」
過去、
それを証明した事例は一度や二度ではない。
それが、協会の論理。
正しく、合理的。
「……勇者様には」
調査官が尋ねる。
「まだ報告のみ」
「討伐要請は出さない」
「理由は二つ」
一人が指を立てる。
「一つ。現時点で明確な犯罪行為はない」
「二つ。英雄の剣は、秩序のために振るわれるべきだ」
誰も反対しない。
「……では」
「監視段階へ移行します」
「“残灯の砦”を中心に」
静かな決定。
誰も悪意を持っていない。
だが。
紙に記されたその判断は、
誰かの選択肢を少しずつ削っていく。
まだ、
その自覚はなかった。




