第63章「正しかったはずの結果」
夕方。
森の外れ。
勇者の部隊は、
魔物の本隊を討ち終えていた。
地面には、
黒く焼けた痕。
「……殲滅完了」
兵の声は、
疲れている。
勇者は、
剣を納めた。
「……被害は」
「こちらは軽微です」
側近が続ける。
「……ただ」
地図が広げられる。
「魔物の一部が散開しています」
「想定より、早い」
勇者の視線が、
森の方角へ向く。
「……誘導が乱れているな」
「……原因は」
「戦場に、
不自然な停止痕が確認されています」
兵が続ける。
「死骸の動きが、
通常と一致しません」
勇者は、
静かに理解した。
「……誰かが介入したな」
「はい」
怒りはない。
ただ、
状況の再構築。
「……救助か」
「可能性は高いです」
その時。
「報告」
別の兵が入る。
「協会より通達」
死霊術を監視する組織。
勇者と協調関係にある機関。
「戦場に死霊の痕跡があったと」
勇者の眉が、
わずかに動く。
「……確証は」
「断定はできません」
「ですが、
秩序を乱す力が使われた可能性を示唆しています」
勇者は、
深く息を吸った。
「……誰かを責める話ではない」
「……救われた命もあるだろう」
誰も否定しない。
「……だが」
地図を指でなぞる。
「全体を預かる立場として」
「この乱れは、看過できない」
声は静か。
冷たくはない。
正義の声だった。
「……記録せよ」
「……残灯の砦を含めてだ」
それは命令。
そして、
調査の開始だった。
同じ頃。
森の奥。
クロは、
焚き火の前に座っている。
助けた者たちは眠っている。
「……間に合った」
ミケが言う。
「……それだけで十分ちゃう?」
クロは火を見つめる。
「……それで終わると、思うか」
ヨルが盾を置く。
「……終わらん」
短い言葉。
誰も反論しない。
火はまだ燃えている。
だが。
正しかったはずの行動は、
すでに別の正しさと交差していた。
衝突は、
これから起きるのではない。
もう始まっている。




