表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪と呼ばれたネクロマンサー 〜拾えない命を拾うために、僕は悪を選んだ~  作者: よすが


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/83

第62章「間に合うかもしれない」


 森に入った瞬間、

 空気が変わった。

 焦げた匂い。

 血と、焼けた木の匂い。

「……近い」

 ヨルが、

 盾を前に出す。

 木々の隙間から、

 村が見えた。

 半分は、

 もう崩れている。

 家屋。

 柵。

 畑。

「……遅かったか」

 ミケが、

 歯を噛みしめる。

「……まだや」

 クロは、

 地面を見る。

 倒れている影。

 人だ。

 動いていない。

 クロは、

 一瞬だけためらった。

 そして、

 膝をつく。

 杖を地面に突き、

 低く言葉を落とす。

「……聞かせてくれ」

 冷たい。

 土の下に沈みかけた気配。

 胸の奥が、

 一瞬だけ軋んだ。

 第二の鼓動が、

 不規則に跳ねる。

 視界が、

 わずかに歪む。

 ヨルは、

 何も言わない。

 ミケも、

 視線を逸らした。

 やがて。

 ――東。

 声ではない。

 それでも、

 確かに“方向”が落ちてくる。

 ――逃げた。

 ――子供と、年寄り。

 クロは、

 立ち上がる。

「……東や」

「まだ間に合う」

 走る。

 森を抜け、

 細い道へ。

 やがて。

「……いた!」

 ミケが叫ぶ。

 十数人。

 老人。

 子供。

 足を引きずる女。

 そして。

 倒れている男。

 動けない。

 追ってくる影。

 魔物だ。

「……盾!」

 ヨルが前に出る。

 衝突。

 盾が地面を削る。

 腕が軋む。

 ミケの矢。

 一体、倒れる。

 カイの矢が

 二体目の動きを止める。

 三体目が、

 倒れている男へ向かう。

 クロは、

 躊躇わなかった。

 杖を地面に叩きつける。

 さきほど倒れた魔物の死骸が、

 ゆっくりと起き上がる。

 関節が、

 不自然に鳴る。

 魔物は、

 魔物に組み付いた。

 時間が生まれる。

「……今や!」

 ヨルが叫ぶ。

 人々が走る。

 だが。

 倒れていた男は、

 動けない。

 クロが駆け寄る。

「……立てるか」

 男は、

 首を振る。

 クロは、

 わずかに息を止めた。

 第二の鼓動が、

 また強く鳴る。

「……行け」

 ヨルが叫ぶ。

 クロは、

 一瞬だけ空を見る。

 そして、

 男を抱え上げた。

 背後で、

 魔物の咆哮。

 盾が、

 もう一度衝撃を受ける。

 逃げる。

 全員ではない。

 振り返った先、

 倒れている影が、

 もう動かなかった。

 戦いが終わった頃。

 クロは、

 膝をついていた。

 息が荒い。

 指先が、

 わずかに震えている。

 ミケが水を渡す。

「……やりすぎ」

「……やらな

 後悔する」

 ヨルは、

 盾についた深い傷を見る。

「……救えた命は

 あった」

 クロは、

 何も言わない。

 煙は、

 まだ上がっている。

 救えなかった命も、

 確かにあった。

 だが。

 今、

 泣いている子供がいる。

 それだけは、

 事実だった。

 間に合った命は、

 確かに存在した。

 それでも。

 すべてではない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ