第61章「切り捨てるという判断」
昼前。
残灯の砦に、
息を切らした旅人が
転がり込んできた。
「……村が」
水を飲ませる。
「……北の
小さな村が……」
クロは、
言葉を待つ。
「魔物が
群れで……」
「避難勧告は
出てたらしいです」
ミケが、
眉を寄せる。
「らしい?」
「……間に
合わなかった」
それだけで、
十分だった。
ヨルが、
盾を背負い直す。
「……距離は」
「……半日」
ヨルは、
短く計算する。
「……今から出れば
日が落ちる前に着く」
「……戻りは
夜や」
クロは、
一瞬だけ
目を閉じた。
遠くない。
だが、
軽い距離でもない。
同じ頃。
王都。
勇者の前に、
同じ報告が
上がっていた。
「……北の村」
「魔物の規模は
想定以上です」
地図。
赤い印が、
いくつも
重なっている。
「……ここで
足止めすると」
側近が言う。
「他の街道が
危険に晒されます」
勇者は、
迷わなかった。
「……本隊を
優先する」
静かな声。
「……避難勧告は
出ている」
「……従えなかった者を
責めることは
しない」
「……だが」
勇者は、
地図から
視線を上げる。
「ここで
止まるわけには
いかない」
誰も、
反論しない。
合理的で、
冷静で、
正しい判断だった。
王都では、
誰も疑わない。
残灯の砦。
クロは、
焚き火の前で
立ち上がる。
「……行く」
ミケが、
即座に答える。
「せやな」
レインが、
弓を取る。
ヨルは、
盾を構える。
「……全員は
行かん」
その一言で、
空気が変わる。
「……守りも
残す」
クロは、
うなずく。
「……助ける」
「……助けられる分だけ」
誰も、
勇者を
否定していない。
ただ。
目の前にある命と、
地図の上の命が、
同じ重さではない
という現実だけが
横たわっていた。
その判断は、
もう
どこかで
下されている。
だが。
ここでは、
まだ
選び直せる。




