第57章「足りないもの」
昼。
砦は、
昨日より騒がしかった。
声。
足音。
水のはねる音。
「……水、もう空や」
ミケが、
桶の底を叩いた。
軽い音。
空の音だった。
「さっき満たしたばっかりやろ」
レインが眉をひそめる。
「人数分や」
クロは、
焚き火の跡を見ながら答える。
水。
食料。
薪。
寝床。
一人増えると、
全部に影響が出る。
その時、
ロクスが桶を持ち上げた。
「俺、もう一回行きます」
立ち上がったが、
一瞬だけふらついた。
「……無理すんな」
ヨルが低く言う。
「大丈夫です」
ロクスは笑った。
だが、顔色はよくない。
カイが、
静かに言う。
「……見張り、昨日長かった」
レインが目を逸らす。
「回せる言うたけど、
少し削っとるな」
クロは、
図面を見る。
線はまだ途中だ。
「……守るだけやと、
削れていく」
ヨルが言う。
誰も否定しない。
その時、
水場の方から声。
「桶、落ちました!」
木桶が割れていた。
沈黙。
ミケが苦笑する。
「足りんの、増えたな」
クロは短く息を吐く。
「……直す」
「またそれや」
「他に方法がない」
砦は足りない。
だから考える。
だが、
考える前に、
削れていくものもある。
それが、
今日、初めてはっきり見えた。
足りない。
そして、
まだ増える。




