第55章「盾の理由」
夜明け前。
砦は、
まだ眠っている。
焚き火の灰が、
かすかに赤い。
ヨルは、
門の内側に立っていた。
盾を、
地面に置いたまま。
「……寝んでええんか」
クロが、
背後から声をかける。
「……交代まで
まだ」
それだけ答える。
外は、
静かだ。
風の音。
遠くの鳥。
「……昨日」
クロが言う。
「無理は
してなかった」
ヨルは、
少し考えてから答える。
「……止めるだけ」
「……それが
一番、
崩れにくい」
クロは、
うなずいた。
「……倒すより?」
「……倒すと、
前に出る人が
増える」
「……守ると、
後ろに
人が残る」
簡単な理屈。
でも、
簡単じゃない選択。
砦の奥から、
物音。
ミケが、
目をこすりながら出てくる。
「もう起きとるん?」
「……起きとる」
「相変わらず
盾やなぁ」
ヨルは、
少しだけ
口元を緩めた。
「……役割や」
「誰が
決めたん?」
「……私が」
ミケは、
それ以上
聞かなかった。
代わりに、
盾を見て言う。
「でっかいな」
「……重い」
「でも、
前に立つと
安心する」
ヨルは、
盾に手を置く。
「……後ろに
人がおるから」
その時。
砦の中で、
誰かが
咳をした。
レオだった。
フェイが、
慌てて
背をさする。
ヨルは、
一歩だけ
門の前に立つ。
盾を構える。
まだ、
何も来ていない。
それでも。
「……ここに
立つ理由は
それで足りる」
クロは、
その背中を見ていた。
強いから
前に立つわけじゃない。
倒せるから
選んだわけでもない。
残したいものが
後ろにあるから。
ヨルは、
今日も
盾の前に立っている。




