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「『異世界転移したら魔法の呪文が全部英語だった件〜ドラゴンを自力で倒さないと帰れないってマジですか?!〜』ってなにこれ」
昼休み、冴がお弁当を食べるために合わせた机の上に、そんなタイトルが書かれた企画書のような綴りをおもむろに取り出して置いた。
急に置かれたそれを全員が目にして、凛子が全員の疑問を代表して口に出してくれたところである。
「英会話部の文化祭の出し物」
「ラノベのタイトルみたいに長いね」
「あー、こういう長い感じのタイトルのやつ、アニメとかに多いよね」
それはライトノベルがアニメになって、タイトルがそのまま使われているからそうなのであって、美緒莉が言うようにアニメのタイトルが長い傾向にあるわけではないのだけれどなんて、どうでもいい主張をしそうになったアリーシャは、なんとか言葉を飲み込んだ。
「アニメ? 劇やるんじゃないの?」
「だからこれがその劇のタイトル」
「…これが?」
「これが」
どうやら英会話部は、最近流行りの異世界モノで劇をやるらしい。
タイトルだけであらすじがわかりやすいのが、この形式のいいところである。
「男子ばっかりだった英会話部に、今年は女子が何人か入部してくれたらしく、その中で創作が好きな子が台本を書いてくれたみたいだよ」
英会話部に女子の入部があったのはアリーシャとしては初耳だった。
気になってちらりと横目で凛子を見てみたが、凛子も初耳だったようで、一瞬眉をしかめていた。
「あのむっさい部活に女の子がねぇ」
気にしていないような素振りで頬杖を付いてそっぽを向く凛子ではあるが、事情を知っているアリーシャからすると、入部した一年女子に対して悠紀がどう接しているか、気にしているようにしか見えなかった。
「そうそう、なんか英会話部の部長と新しく入った一年生の女子が幼馴染で、その子と、その子と一緒に入部した女子が部長の周辺だけできゃあきゃあやってて、取り残された男子どもが通夜だって聞いた」
「わー、つらーい」
「うける」
冴の話を聞いてそう笑った凛子は、どうやらひとまず安心したようだった。
「これドラゴン倒す話になるんだよね、ドラゴンはこっちでは作らないけどどうするのかな?」
凛子は大丈夫そうなので、アリーシャはそちらを置いて目の前の台本に話を移した。
まだ勝手に手に取ったりはしていないが、台本としてはそこまで分厚そうではないように見える。
「そこは大道具製作班がなんとかするでしょう。材料はお互い持ち寄ってるから使ってくれていいし、大道具班のほとんどは英会話部から来てくれてるから好きにしろって感じかなぁ」
「じゃあこっちからは衣装かなやっぱり」
演劇部と英会話部は連携を行うという約束の元、演劇部は大道具の準備などで英会話部に協力してもらっている。
以前もそのような話があったように、演劇部側からは作った衣装の貸し出しが行われる予定のようだ。
「そうだね。でもそれも練習で作ったケープとか借りられればいいっていうから、そこまで難しくないと思うんだけど、お願いできるかな」
冴はそう言いながら衣装担当の美緒莉に、紙を一枚渡した。
それを受け取った美緒莉が内容を確認している横から、アリーシャも覗いて見てみたが、本当に必要なのは人数分のケープくらいのようだ。
「えー、せっかく楽しくなってきたところなのに、ケープだけなの?! 世界観大事にしようよ、もっと作る物無いの?!」
「まかさのおかわり要求。その辺は英会話部と打ち合わせしてよ、場所は設けるからさ」
「わかった。りんちゃん、頑張ろうね」
「なんであたしまで」
凛子は小人役で演劇班だが、美緒莉は打ち合わせに連れて行く気満々のようだ。
「私英会話部の知り合いいないもん、一人じゃ心細いよ。りんちゃんはゆーき君と幼馴染なんだから付いてきてよー」
凛子の腕を引っ張って降る美緒莉に、アリーシャは心の中でサムズアップした。
凛子と悠紀に接点を作るナイスサポートだ。
凛子も悩んでいるふりはしているが、行く気はあるのだろう、なんと言って了承するか悩んで視線を彷徨わせているようだった。
ここは凛子が頷きやすいようにアリーシャからも一押ししておこうと口を開いた。
「り、んこは、衣装デザイン、もやってたし、打ち合わせに一緒に行ったらスムーズだと思うなぁ」
アリーシャはここ最近の演劇の中で一番緊張したし、一番下手くそだった自信があった。
最初はどもって、それを誤魔化そうと最後の方は早口になってしまった。
自身のアドリブ力のなさに冷や汗が止まらない。
「そうだよー、一緒に行こうよー」
「わかったよ、その時は一緒に行ってあげる」
アリーシャの下手くそなサポートは、それでもなんとか上手くいったようだった。
アリーシャはそっと安堵のため息をついた。




