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「えっと、勧誘って何の話なんでしょうか」
着席した亜姫は、大きな背を丸めて冴の様子を窺うようにおずおずと尋ねた。
「うん。単刀直入に言うと、演劇部に入りませんかって言いに来たんだけど、どうかな」
真っ直ぐな冴の言葉に亜姫は視線を彷徨わせて迷っている様子だった。
「あのね、十一月の文化祭で、白雪姫をやるの」
「入部した男子どもが皆王子様やりたくないって言ってて、今困ってるんだけど、王子様役とかやってみたくない?」
冴の右に美緒莉、左に凛子が立ち勧誘を行っている様子は、傍から見ると圧迫感があり、何も知らずに見たらいじめられているようにも見えた。
アリーシャはそっと亜姫の後ろへ近づき、悩んでいるというより、困っているようなそぶりの亜姫に話しかけた。
「えっと、私が白雪姫役をやるんだけどね。まだ練習が始まったばかりだから、今からの入部でも全然間に合うし、今日は二年生だけで来ちゃったけど、部員は一年生の方が多いから、よかったら見学だけでもどうかな。皆いい子だし、台詞の読み合わせとかでいっぱい喋るから、すぐに仲良くなれるよ」
アリーシャの言葉を聞くと、亜姫は俯いていた顔を上げ、縋るような目でアリーシャのことを見つめてきた。
「本当ですか、私。友達出来ますか?」
「いやお前その顔で友達いないんかーい」
アリーシャは造形の良い顔が急に縋るような表情で見つめてきたことにより、非常に動揺し言葉に詰まったのだが、代わりに凛子の流れるようなツッコミが入った。
「あれぇ、私が聞いた噂だとすっごい人気な感じだったんだけどなあ」
「私も調べた限りだとすっごい人気な感じだったなあ。絶対勧誘成功させてくれって熱意が、主に女子から」
ほらと手にしていたスマートフォンのチャットログを冴が机において見せると、確かに一年生女子から結構な熱量の推薦と勧誘を応援するログが残っていた。
「え、これ本当に私の話ですか?」
「そうだよ。ほら、ちゃんと名指しされてんじゃん」
「わー。えー、本当だあ」
チャットログから自身の名前を見つけて、少し照れくさそうに、それでも嬉しそうに亜姫はそれを眺めていたが、ある程度読み終えて満足したようで、スマートフォンから目を離し、前に座っている冴に向き直った。
「私、中学の仲良かった子が全員別の学校行っちゃって、一人だったんです」
そう言った亜姫は、先程までと同じように、大きな背を丸めて自信なさげに俯いた。
「高校入って、新しい友達作るぞーって張り切っていたのに、入学後すぐ風邪ひいて、暫く学校に来れない間にグループ出来上がってて。それでもなんとか挽回しようって球技大会で張り切ったら、なんか余計に誰も話しかけてくれなくなっちゃって。あれもしかして私一人張り切っちゃって、痛い奴って思われてたりって思っちゃって、なんかいたたまれなくって。もう本当学校嫌で、鬱に片足突っ込んでいる状態だったんですけど。なんか、違う感じなんですかね、現状」
窺うように顔を上げて首を傾げる亜姫は、自身の置かれた現状が思ったより酷くないことを期待しているようだった。
「一緒にバスケやった子とかとは話したりしないの?」
「大会中は仲良くなれたと思ったんですけど、翌日からは全然。むしろ避けられている気がして、話しかけに行けなくなっちゃいました」
「これはあれじゃん。女子によくある牽制と嫉妬」
「私なら何が何でも隣キープするけどね。バカみたい」
アリーシャは凛子の言葉に納得して頷いていたら、急に口が悪くなった美緒莉に驚いて二度見した。
バカみたいと言い切った美緒莉は、いつものような笑顔だったので、何かの聞き間違いかと自分の耳を疑うくらいには驚いていた。
「演劇部には二組の子も別のクラスの子もいるし、アリーシャも言ってたように演技するからには強制的に話すから友達もできるんじゃね、きっと。それに王子やることになっても、相手役の白雪姫は二年の先輩になるわけだから、周囲も文句言いにくいだろうし。むしろイケメン顔に王子服用意してやるんだから、感謝してほしいくらいあるし、問題ないね」
ないのか、本当か。
自信満々に言い切った凛子に、アリーシャは内心疑問の声を上げていたが、ここで口を出すほど無粋ではないので出かかった言葉は飲み込んだ。
「ええっ、私イケメン顔認識なんですか?!」
「そこ驚くとこかよ?!」
急に大きい声を出して驚いた亜姫より大きい声で凛子が驚いた。
「だ、だって中学までは髪が長くって、なんかの妖怪みたいだって馬鹿にされてて、高校で友達作りたくって、高校デビューとして切ったんです。美容師さんにバッサリってお願いしたら、本当にばっさりやられて、ちょっと内心後悔していたっていうか」
「そんなことない、大丈夫。凄く似合ってるよ、アメリカだともっと短い子普通にいるし」
「ってかその美容師さんセンスあるわー」
「その妖怪とか言った奴は一生許さなくていいからね」
「ところで演劇部入りませんか」
二年生に囲まれて肯定的なことを言われて自信がついたのか、亜姫は口元をもにょもにょと動かしてから口を開いた。
「実は部活動見学も風邪のせいで行けてなくて、そのままなあなあで部活入ってなかったんですけど、そんな私でも大丈夫ですか」
「大丈夫大丈夫、王子役ならそんなに出番ないし。その顔ならあのこっ恥ずかしい台詞もチャラで、むしろおつりがくるでしょう。とりあえず今日時間があるなら見学していこうぜ」
「は、はい」
冴に肩を叩かれ亜姫は元気よく返事をして立ち上がった。
勧誘が上手くいったようで何よりだが、アリーシャはあの台本の中で、王子にそんな恥ずかしいような台詞があったかと考え、眉をひそめた




