82
「一年二組、長谷川 亜姫。中学までは陸上でハードルをやってたけれど、うちの学校では陸上部がないのでそのまま辞めたのかな。現在帰宅部で、調べた限りだとバイトもやっていなく、放課後はそのまま家に帰っているみたいだと言うことだけど、合ってるかな?」
「ええと、はい。合ってます」
放課後、冴が王子候補を捕まえに行くと四人のグループメッセージに入れたのに対し、美緒莉も自分が見た子で間違いがないかの確認も兼ねて一緒に行くと言い張り、凛子もイケメンを見て見たいと続くと、アリーシャもせっかくならばと、結局いつもの四人で一年生の教室に突撃することとなった。
放課後のホームルーム終了後、全員で集合し、速足で目的の教室に向かえば、丁度ホームルームが終わったところだった。
放課後といえど、いきなり上級生が揃って教室の扉の前にいたのを見た一年生たちは、少し戸惑っている様子で、アリーシャは早速ついてきたことを心の隅で後悔し始めていた所だったのだが、そんなアリーシャの心境などお構いなしで、冴は帰宅するために教室から出ていく一年生の波に逆らい、勝手知ったる態度で教室の中へと歩を進めていく。
美緒莉や美緒莉も何食わぬ顔でそれに続くので、もしかしたら勝手に気まずさを感じていたが、何でもないことなのだろうかと思い直して、アリーシャも彼女らの後に続いた。
目的の人物は、教室の前の方の席で帰宅の準備をしているようだった。
冴はその前の席が空いているのを確認すると、椅子を引き、目的の人物と向かい合うように椅子を向けて、当たり前のようにそこに座った。
そうして座った冴の右に美緒莉、左に凛子が立ち、帰宅準備をしてそれに気づいていなかった目的の人物が、鞄に詰めていた教科書からふと視線を上げた途端、見知らぬ上級生に取り囲まれているという状況となっていた。
「ひっ」
小さく上がった悲鳴は不可抗力だろう。
「こんにちは、長谷川さん」
「え、こ、こんにちは?」
そうして冒頭へ至るまでの会話を、アリーシャは静かにちょっと離れたところで見ていた。
ついでに、アリーシャと同じようにちょっと離れたところで様子を窺っている生徒が、まあ何人かいた。
「すごーい。さえちゃん話したのお昼休みだったのに、いつの間に調べたのー?」
「まあ一年生の知り合いはおかげさまで増えたからね。ちょこちょこっと聞けばすぐに情報は集まったよ」
「座ってる感じだとそんな背高く感じないけど、実際どうなの、ちょっと立ってみてよ」
「ええ、なんですかあこれぇ」
戸惑う一年生の腕を引いて、凛子は席から立つように促している。
長谷川 亜姫、一年生。
短く切りそろえられた黒髪、切れ長の目、整った顔立ち、そして凛子に促されて立った所を見て、アリーシャは何度か頷いて吞み込んだ。
間違いなく、スカートを履いている。
女子だ。
「おお、立つと結構おっきいねー。アリーシャ、並んでみなよ」
凛子に促されてアリーシャはようやく近づき、亜姫の隣に並んでみると、亜姫は確かにアリーシャよりも少し背が高いくらいの身長を持っていた。
「いい感じなのでは?!」
「いや、まだ勧誘が済んでないから、ごめんね急に。とりあえず座ってー」
決定事項のようにはしゃぐ美緒莉を窘め、冴は亜姫に着席を促した。




