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「でもさ、私は全然傷ついていなかったけど、なんで凛子は私に酷いこと言おうと思ったの?」
折角終わった話を蒸し返すようで大変申し訳ないが、アリーシャは凛子に酷いことを言ってやろうと思われた理由がわからなかった。
アリーシャが気づかないうちに凛子に対し何かしてしまっていたのなら申し訳なかったし、もう一度仕出かさないとも限らない。
ちゃんと原因を知っておきたかった。
アリーシャの質問に凛子は非常に気まずそうに視線を彷徨わせてから、アリーシャの手を引き、駐輪場の端にあった花壇の一番端までやってくると、そこに腰掛けたので、アリーシャもそれに倣ってその隣に座った。
「…皆には内緒にしておいてくれる?」
誰もいない駐輪場の端の、花壇の更に端で、凛子は周囲を確認した後、声を落としてアリーシャにそう言った。
アリーシャは内緒話の気配を察して、そのまま小さく頷いた。
「あ、あたしね。あいつの、悠紀のことが、ずっと好きで」
「What?!」
アリーシャは衝撃的に叫び出した口を、すぐさま両手で抑え込んで耐えた。
今、今なんと、今なんて、誰が、誰を、なんだって言ってた。
アリーシャの頭は混乱し、眩暈すらしそうだった。
しかし、よくよく凛子の顔を見て見れば、先程まで泣いて赤くなっていたと思っていた顔が、全く別の感じで赤くなっているように感じられた。
そう言われてみれば、確かになんだかんだ言い争いのようなことをしていた二人ではあるが、座るときは隣同士だったり、女子の名前を呼ぶときは、英語で話すアリーシャ以外の女子を名字で呼んでいる悠紀が、凛子だけ下の名前で呼んでいたり、思い当たる節があったりなかったりした。
「あたしね、両親がちょっと頭が軽い系の馬鹿でさ」
急に両親の悪口を言い出した凛子に、アリーシャは混乱した頭のまま頷いた。
「小学校の頃、自分の名前の由来を両親に聞いて発表するっていう時間があってさ、両親に由来を聞いたの」
日本語に使われている漢字というものは、その一字を取っても様々な意味が込められている場合が多い。
両親がどんな理由でその字を選んで名を付けたのか、それを調べるというのはなんと素敵な授業なのだろうか。
アリーシャはそんな気持ちで凛子の話に頷き続きを促した。
「そしたら両親は女の子が生まれたら、好きな歌手が出した曲から取ってマーガレットって名前にするつもりだったのに、ばあちゃんに止められて大喧嘩してこの名前になったって。お前の名前はばあちゃんがつけたからばあちゃんに聞けって言ってきてさ。あたしも馬鹿だったから、そのままその話を授業で発表したのよ」
凛子の名前が決まった後、両親とおばあさんは仲直りをしたらしいが、このバリバリの日本人顔にマーガレットはなくないと怒る凛子は、名付けてくれたおばあさんに非常に感謝しているのだという。
「そしたらさ、同じクラスの男子がからかうようになったんだよ。あたしのことマーガレットって呼んだり、凛子って名前は子が付くから古臭くってダサいって」
その当時、子供の子が付く名前を持っている女の子はダサい名前だという風潮があったらしく、凛子は大好きなおばあちゃんが付けてくれた名前を馬鹿にされて悔しかったり、自分でもないと思っていたが、優しい両親が付けようとしていた名前をからかわれて、本当に辛い思いをしていたのだという。
「そんな風にさ、あたしが馬鹿にされていた時、全然そんな話を知らなかった隣のクラスのあいつが通りかかってきてさ、言ったのよ」
『なんで、凛子って名前かっこいいじゃん』
「自分でもちょろいって思うけどさァ、そっからずーっと片思いなんだよぉ」
そう言って顔を覆う凛子の隣で、アリーシャも口を覆っていた。
なんとも可愛らしエピソードに胸がドキドキしていた。
「高校も一緒になれたのに、あたし全然素直になれなくて、一年の時はクラスも一緒だったのに、二年になったらあいつ進学クラスなんて行きやがって、クラスも離れちゃうし。そしたらアリーシャと仲良く話しているの見ちゃって、あたし、全然自分でなんもできてない癖に、アリーシャに八つ当たりしちゃってぇ」
顔を覆ったまま蹲って小さくなる凛子の背中を、アリーシャは静かに撫でた。
そしてもう片方の手でにやけてしまう顔を必死になって押さえていた。
つまりこれは所謂コイバナというやつだ。
素直になれない凛子のなんと可愛らしいことなのだろうか。
そうしてちょっと前に悠紀と話していたことを振り返ると、私の王子様になってだなんて、とってもふざけたことを言っており、友人の好きな人を誘惑するなど間違いなく有罪案件だと気づいた。
「凛子。今日は知らなかったとはいえ、十分の十私が悪かった。ごめんね」




