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演技も衣装も道具も全て、まだ全然できていないがようやく動き出した五月の半ばも過ぎ。
木々に茂った若葉も育ち、晴れの多かった天候に、湿気た雨の気配を感じるようになった、六月も近づくとある日の昼休み。
順調に進んでいると思っていた演劇部の活動が、眉根を寄せた冴の一言で、それがまやかしだったと気づかされることとなった。
「王子が、見つからんのだが」
冴の零した言葉に、その場にいた美緒莉、凛子、アリーシャの返した反応は沈黙だった。
アリーシャは口にしていた食事と共に、冴の言葉の意味を飲み込んだ。
王子が、見つからないと、冴はそう言っていた。
「え、一年の男子はやってくれないの?」
一拍遅れて沈黙を破ったのは凛子だった。
確かに凛子の言うように、二年生に男子部員は、まあ一人いるが、悠紀は戦力外としても、一年生には四名いたはずだった。
「一人は語り部、一人は狩人で、残り二人は大道具やってる。全員王子はやりたくないと辞退している」
「英会話部でやってくれる人はいないの?」
「そっちもダメ元で声かけてみたけど、全力で拒否られてる」
冴の言葉に、アリーシャはショックを受けて項垂れた。
「それは私が白雪姫だから、相手役やりたくないってこと?」
半分くらい涙声になりながら、絞り出すように言ったアリーシャを見て、冴は可笑しそうに笑った。
「違う違う、そんなんじゃないって」
そう言ってひとしきり笑うと、机の持ち主である凛子に、演劇部の台本を借りて、何ページかめくり、わざとらしく咳ばらいをしてからその台詞を読み上げた。
「『ああ、なんということだ。まるで眠っているようではないか。美しき白雪姫、どうか嘘だと言ってくれ。どうかまたあの美しい瞳で私を見つめ、小鳥のような歌声を聞かせておくれ』」
冴のいつもより低い声で読み上げられた王子の台詞は、なかなか様になっていた。
読み上げた本人は、台詞が終わると肩をすくめてため息をついた。
「思春期真っ只中の男子共には、こんな感じの甘ったるい台詞を素面で言うのが恥ずかしいらしい」
「しらふ? しらふって何?」
「お酒に酔ってない人のことだねー」
「未成年の癖に? お酒の味も知らないで何を言っているの」
「アリーシャも知らんだろうが」
え、知らないよねと自分で言っておいて凛子が確認するが、日本よりアメリカの方が飲酒ができるようになる年齢が高いので、勿論知らない。
「ってかさえちゃんが王子やればいいじゃん」
「私が王子をやったら、当日の運営は誰がやるんだよ」
「そっかあー、そういうのもあるのかー」
「何はともあれ、いつか王子様がとか言ってる場合じゃなくなってんだよ。今必要なんだわ王子様。誰かアリーシャよりも背が高くて恥ずかしい台詞も素面で言える王子様見つけたら捕まえておいてよ」
そんなコンビニに行くならあのプリン買っておいてみたいなノリで言われても、そう都合のいい人間がいるわけないじゃない。
アリーシャはそう思ったが口に出さずに頷いた。
なかなかいないとしても、これは見つけなければならない人員なのだ。




